それぞれの出発⑥
けれども、全ては事実だった。これから戦っていく相手は、確実にあの男だと思っていた。それなのに自ら国を捨て、行方をくらますとは、なんて身勝手な男なのだろうと軽蔑した。
しかも行方をくらました理由が、女に愛されなかったからだった。鉄のように固い精神を持った男だと思っていたが、案外もろかったのだ。
セイウンはロウマのことを頭から、すっかり取り払っていた。耳にするのも嫌な名前だった。だが、その名前が再び耳に入って来た。
「それでロウマがどうした?」
「私はロウマの行方を追って、北に向かいました」
「異民族の土地か。行って何をしていたんだ?」
「彼を殺そうとしたのです」
「結果は?」
意外なことにセングンは拍子抜けした。セイウンはロウマの暗殺計画を聞いても、微かに顔付きが変わった程度で、それ以外は格別驚いた様子が見られなかった。
「発見までは至りましたが、失敗しました」
「ということは、何かあったんだろ」
「はい」
「言え」
ハイドンは、何が起こったのかを詳細に語った。ロウマをおびき寄せたこと、自分が異能者であること、あと一歩というところでロウマの能力の前に惨敗して、二十名いた部下のうち生き残ったのは、わずかだけだったという事を。
セイウンはハイドンが話している間、黙って聞いていたが全てが終わると、深い溜息をついた。
「特殊能力者だったのか、あいつは?」
「そうです。極めて異質な能力です。おそらく、この世にいる特殊能力者の中で、一番手強いでしょう」
「俺よりもか?」
「はい」
随分あっさり言われたものだった。セイウンは思わず苦笑した。だが、見て来た奴が言うのである。現実を受け止めなければいけなかった。セイウンが頷くと同時にバルザックが間に入って来た。