流浪の軍④
ロウマもその方が楽だった。他人に手伝われながら着替えるなんて、考えただけで、背筋がぞっとする。着替えがすむと、居間に向かった。すでに弟のノーチラスが椅子に座っていた。
「おはよう、兄ちゃん」
「ああ」
「相変わらずだね、兄ちゃんは。まだ朝に弱いのか?」
「どうも好きになれない。力を奪われる感じがする」
「それはまた妙だ。でも、さすが俺の兄ちゃんだぜ」
「ほめてどうする」
ロウマの言った事を無視したノーチラスは、紅茶のカップに口をつけると、中身をすすった。すする時の音が少々大きかったが、これは昔からノーチラスの癖だった。何度も注意しているが直る気配が無かった。
「ノーチラス、今さらだが、礼を言わせてほしい」
「唐突だね。どうしたの?」
「私がいない間、屋敷を守ってくれてありがとう」
「ただ屋敷にいただけだよ。礼を言われるほどでもないさ。そんな事より、久し振りに父さんや母さんの墓参りに行った方がいいぜ。帰って来てから一度も行ってないだろう」
ノーチラスは再び紅茶をすすると、窓の方に目を向けた。
ロウマはいつも考える事があった。本当は当主としてふさわしいのは、自分ではなく弟のノーチラスではないのかと。自分は所詮、戦場でしか活躍の場はない。平和になったら、必要ないはず。その時は、家督を譲ってやろう。ロウマは心の中で誓った。
「師匠、おはようございます。今日もいいお天気ですね」
「ロウマ様、紅茶をお持ちしました」
「ロウマ、おはよう。横に座ってもいいかしら」
背後から、ナナーとアリス、シャリーの声が聞こえた。アリスはともかくとして、どうしてナナーやシャリーが朝から屋敷にいるのだろうか。
「おはよう、三人とも」
ノーチラスがさわやかに挨拶をした。
「おはようございます、師匠の弟さん」
「おはよう、ノーチラス」
ナナーとシャリーも挨拶を返した。
「ノーチラス、なぜ朝からナナーとシャリーが屋敷にいるんだ?」
「あっ、そうか。兄ちゃんは昨日、帰って来てすぐ寝たから、知らなかったね。今日から彼女達は、ここに住むことになったんだよ」
「なんだって?」
アリスから差し出された紅茶のカップに口を付けていたロウマは、あまりに唐突な事だったので吹き出してしまった。




