流浪の軍②
疑問は拭えなかったが、パリスは言われた通りのことをこなしていった。しかし三日経過しても、何も出なかった。抜かりはなかったはずである。ジュナイドにも協力してもらったが、やはり駄目だった。
四日目に自分の身辺を何者かが、うろついていることに気付いた。パリスはこの時、妙な感覚を味わった。
ふと、鏡を見た。鏡にはパリス自身が映っていた。
パリスは、はっとした。不穏な動きをしている者。それは自分だった。考えられるのは、もはやそれしかない。
気付かれたのに、パリスはあせっていなかった。むしろ頃合かもしれない。
とるべき方法は二つだった。今すぐ反乱を起こすか、クルアン王国から脱出するかである。
前者は危険だった。語り合える同志や兵力も、そんなにない。ならば逃げるが勝ちだった。ジュナイドに事の次第を伝達したパリスは、すぐに逃亡の準備にかかった。連れて行く兵力は選りすぐりの二百騎だけにした。歩兵を入れなかったのは、足手まといになりかねないからである。
六日目にパリスは自分の身辺をうろついている怪しい者を捕えた。
ボーンズだった。クルアン王国の貴族の中でも、割と上位の家の子息だった。何をしに来たのか脅して尋問すると、ラスティに自分を調べるように命令されたと白状した。パリスは舌打ちした。やはり全て露見していたのである。
ボーンズは助けてくれと何度も叫んでいたが、鬱陶しかった。すぐに首を打ち落とした。
ボーンズを殺した翌日、野外で調練をしてくるという嘘の報告をして、パリス達はクルアン王国の首都から出て行った。
「ジュナイド、やられたな」
「何がですか?」
「ラスティは私にボーンズを殺させたのだ」
「えっ?」
「ボーンズは元来、不良貴族として評判が悪かった。奴が街で悪事を起こす度に父親がラスティに金を渡して、罪を帳消しにしていたのを私は知っている。きっとラスティ自身も、帳消しに付き合ってやることに辟易していたのだろう。だから、俺にボーンズを殺させた。俺は近々反乱を起こそうとしている奴だったから、ボーンズは運悪く巻き込まれた、としておくのだろう」
「なるほど。うまく謀られましたね」
「それでも、俺はあいつを殺した事に対して何も感じてない。むしろ清々している。悪辣なものが一つ、世の中から消えてくれたからな」
罪を着せられたのに、あっさりしているパリスにジュナイドは、器の大きさというものを感じた。




