第七章 流浪の軍①
寒い夜だった。まだ十月の半ばであるが、寒さは初冬並みだった。思わず歯を鳴らしてしまうほどである。パリスは寝付けずに起き上がり、幕舎から出た。早く火で体を温めたかった。
大半の兵士達が、自分と同じように寝付けずに外に出て、焚き火にあたっていた。
パリスも近くの焚き火に身を寄せた。
「お休みにならないのですか?」
ジュナイドだった。彼は見張りのために起きていたのである。
「この寒さで寝れるのなら、そいつはすごい奴だぞ、ジュナイド」
「左様ですか。俺はいつでもどこでも寝れますけどね」
「お前は戦になったら、まず一番に殺されるかもしれないな」
「大丈夫です。その時は眠らずに起きています」
「ほう、絶対だな。その言葉忘れないでおこう」
「やっぱり忘れてください。将軍を怒らせると後が面倒なので」
近くにいた兵士達が、くすくすと笑いをこらえていた。ジュナイドは彼らをにらみつけて黙らせた。
「将軍、話は変わりますけどよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「本当に我々の計画は露見していたのですか?」
「だからこうして、逃げ出したんだ」
パリスがそこまで断言するのなら、間違いないはずである。ジュナイドは完全に沈黙した。
パリスは、たき火の炎を見つめた。見つめていると思い出す。
元帥のラスティ=レルクを。
気付いたのは、十日前だった。
突然、ラスティに呼び出されたのが発端だった。最近不穏な動きが国内で起こっているので調査をしろと命令された。パリスはその責任者に任命された。
その程度だったら、なんとも無いはずだが、渡された調査対象の羊皮紙に目を向けたパリスは疑問がわいた。対象が国内全体ではなく、首都の中だけになっていた。つまり調査範囲が狭いのだ。不穏分子を調べるのなら普通、地方にも手を回させるはずである。




