ロウマとナナー⑪
「あなたが、あんな場所で死んでいく姿を見る事ができないのよ。衰弱して悲壮な顔で、家族に会えずに死んでいく。そんなの想像するだけでも耐え切れないわ」
そう言ったナナーの目は涙で光っていた。
ロウマは黙って彼女を見つめていた。彼女は、かつてロウマを道端の石ころ程度でしか見なかったが、今は自分を愛する一人の女性として真摯な目で見ていたのである。
ふと、ナナーの体に温もりが生まれた。ロウマが自分を抱きしめていたのである。
「ロウマ?」
あまりにも唐突な事だったので、ナナーは驚いて戸惑った。
「ありがとう。本当にありがとう。その優しさがあるだけで、私は十分だよ。だから、医者になるとか、私の病気を治すとか無理を言わなくていい」
「無理なんて……」
「今のナナーは無理しすぎているところがある。まるで自分を見ているみたいだ。そんな姿を見るのは、私が辛くなる。だからもっと自分を大切にしてほしい」
ナナーを抱きしめているロウマの手の力が強まった。少しだが、震えているようだった。
優しさが流れ込んで来る、とナナーは感じた。彼女は胸中がすっきりした。
「分かったわ」
ナナーは涙をぬぐった。
「でも、あなたも無理をしないでね。私はそれが心配なのよ」
「ありがとう。私が無理をするのは国のためでもあるが、お前やアリス、シャリーのためでもあるんだ」
自分のためというのは理解したが、アリスとシャリーという付属品があるのには納得がいかなかったナナーだった。本当にこの人は分かっているのだろうか、とナナーは疑問に思った。
また雷鳴が轟いた。割と近い。
「きゃっ!」
ナナーは頭を抱えた。
「雷は怖いか?」
「そうね……好きな方ではないわね」
「そうか。ナナー、ちょっと見ていろ」
「どこに行くの?」
「いいから」
ロウマは腰に佩いているリオン=ルワを抜くと進んでいった。ナナーが止めているようだが、ロウマの耳に彼女の声は入ってなかった。
「解除」
ロウマは、ぽつりと呟いた。本当は口に出さなくてもいいのだが、言っておいた方が解除したという感じが伝わる。ロウマは自身の持っている特殊能力の封印を解いたのである。
閃光が放たれた。雷はロウマに向かって落ちて来た。遠くではナナーが叫んでいる。
「お前には見せておくよ。私の能力を」
ロウマは向かって来る雷に対して、リオン=ルワを振り上げた。
ナナーは見た。
雷がリオン=ルワによって、真っ二つになる瞬間を。後には何事もなかったかのように、ロウマが立っている。
手にはまだ、リオン=ルワが握られていた。
「見ての通りだ。私の能力は人だろうがものだろうが、いかなるものも抹殺する」
雨はまだ降っている。体に当たる雨は冷たいが気持よかった。
ナナーが走って来るのが確認できる。おそらく抱きつかれるのだろう。
彼女の胸の二つの双丘の感触を味わいたい。好色である自分の本性が頭をかすめたことに、ロウマは苦笑した。




