ロウマとナナー⑨
ナナーは、震えが止まらなかった。助けを呼びたかったが、唇が震えて声がなかなか出ないうえに、こんな暗闇に誰もいるはずがなかった。
「助けて、ロウマ……」
振り絞って声を出したが、いるはずのない人物を呼んでしまった。自分は馬鹿だ己を罵った。もう少しまともな考えは頭に思いつかないのか。
馬蹄の音はどんどん近付いて来る。
ナナーは目をつぶった。亡霊ならば見なければいいだけだ。目を合わせなければ、あの世に連れて行かれることはない。
馬蹄の音が止まった。
間違いなく亡霊は、自分の目の前にいるはず。立ち去れ、立ち去れと心の中で何度も念じた。
「ここにいたのか」
聞き覚えのある声だった。少々疲れ切ったような感じの声だが、こんな声をしているのは、自分の知っている中で一人しかいなかった。自然と上を向き、目を開けた。
「ロウマ……」
「よかった。もしかしてと思って、ここに来てみたが、まさか本当にいたとはな。お前がここにいるのも、不思議なものだ」
「捜してくれていたの?」
「当たり前だろう。さあ、帰ろう」
馬から降りたロウマは、ナナーに手を伸ばした。
けれども、ナナーは手を握ったものの、そこから動くことができなかった。
「どうした?」
「腰が抜けて動けないの。さっきの雷のせいで……」
「ならば、私もしばらくここにいよう」
ロウマは、後ろを向くと、愛馬に装着してあるくつわや鞍を外してやった。自由になった愛馬は勢いよく駆けて、やがて二人の視界から消えていった。
「いいの?放してしまったけど?」
「たまには、自由に駆け回らせてやらないといけない。それに、あいつは雨の日に駆け回ることが好きなんだ。変わっているだろう」
「あなたみたいね。そう言われてみれば、飼っている動物は、飼い主によく似るというわ」
「それは、ほめているのかな?」
「そう理解してもらうわ」
「ならば、そうしよう」
地面に腰を下ろしたロウマは、ナナーの方に寄ると、彼女の肩と自分の肩をくっつけた。




