ロウマとナナー⑧
隔離施設を出て帰路についている最中、いきなり雨にたたられたので、ナナーは近くに雨宿りができる場所はないか探し回った。ようやく見つけたのが、この神木だった。かつてロウマが、毎年自分の誕生日に待ち合わせの場所に指定していた場所だった。
早速、雨宿りすることにした。といっても木であるため、時折冷たい雨粒が落ちてきては、服や肌を軽く濡らした。粒が当たるたびに、彼女は小さく震えた。ここでロウマは自分を待っていたのである。ロウマはプレゼントを渡すために、自分に手紙を渡して神木の下で待った。全ては自分に喜んでもらうためだった。ただ純粋な気持で待っていた。
だが、自分は一度もロウマの呼び出しに応じなかった。あのころの自分は、本当に嫌な奴だった。最近は卑屈になることも多々あった。なぜ自分は行かなかったのだろうか。自分を一図に愛してくれている人を、あそこまでぞんざいに扱う事は無かったのに、なぜか自分は扱ってしまった。
ナナーは頭をかかえた。ロウマはすでに、あの時の事を水に流してくれているらしいが、忘れ去る事まではできないはずである。もし時間を戻すことができるなら戻したい。戻して嫌なものを消し去りたかった。
その時、周囲に雷鳴が轟いた。
「きゃっ!」
ナナーは小さな悲鳴を上げると、うずくまった。雨足は徐々にひどくなっている。周辺も暗くなっており、よく見えない。少々、長居しすぎたようである。こんな事なら濡れてもいいから、早く帰るべきだった。
「ロウマ……」
ぽつりと呟いた瞬間、激しい雨の音に混じって何か聞こえてきた。馬蹄の音のようである。こんな雨の中、誰が乗馬をしているのだろうか。だが、すぐに別の考えが頭に浮かんだ。
亡霊である。あり得ないこともなかった。戦死した騎士の霊が出るという話を幼い日から何度も耳にしていた。亡霊に会うと、目撃した者は死者の世界に連れて行かれるという話もあった。




