ロウマとナナー⑦
レイラだった。彼女はシャニスに近寄ると、何か耳打ちをしていた。聞いていたシャニスは、深い溜息をついた。
「どうかしたの?」
我慢できずにナナーは尋ねた。
「三日前にここに入れられた老人が亡くなった。あの状態では助けようにも、助けきれないのが現実だ」
「あの状態?」
「原因不明の吹き出物が体中にできていた。多くの医学書をひっくり返して調べたが対処できなかった」
「そうだったの……」
「医者の辛い部分の一つは、これだ。分からない病気には、本当に対処ができないのだ」
「もう一つあります」
シャニスの横にいたレイラが口を出してきた。彼女は悲しげな目をしていた。
「助けたい命があっても、助けきれない。それが小さな命でもです」
「そんな……」
「ナナーさん、見ますか?もっとも辛い地獄を」
「えっ?」
***
ナナーが屋敷に帰って来ないという報告を受けたのは、日も暮れ始めたころだった。最初にロウマに知らせたのは、アリスだった。外はすでに雨が降っていた。すでに十月であるため、ちょっとの雨でも体にどんな影響を及ぼすか分からなかった。
甲冑を身に付けたロウマは愛馬に乗ると、馬の尻にむちを当てた。愛馬は勢いをつけて、走り出した。ナナーが行きそうな場所を考えたロウマだったが、なかなか頭に浮かばなかった。彼女を知って十年以上の月日が流れているが、大した交流も無かったので、見当もつかなかった。
だが、一つだけ思い当たる場所があった。必ずそこにいるという確証は無いが、向かってみた。
やはりいた。ナナーは神木の下に腰を下ろしていた。




