ロウマとナナー⑤
シャリーにはベサリウスとラトクリフの事は、話していない。言っても信じるかどうか、分からなかったからである。ナナーとアリスは自分の日記を読んだので知っているが、ロウマは詳しくは語らなかった。
「シャリー、この反乱をお前はどう思う?」
「私はよく知りませんが、聞いたところによると、前の反乱の残党勢力ですよね。だったら、大したことないはずです。なんたって私達には師匠がいるのですから」
「買いかぶられたものだ」
「いいじゃないですか。買いかぶりたいのですよ。いけませんか?」
「いや、悪い気はしない」
「そうでしょう。だったら、さっさと片付けてしまいましょう。そして、私と一緒にもっと楽しい事をして暮らしましょう」
ロウマは思わず笑ってしまったが、すぐに表情を元に戻した。目を向けた先は城が描かれている地図だった。懐から短剣を取り出した。刃は昨日研いだばかりであり、斬れ味はよくなっていた。ロウマは、短剣を勢いよく城の地点に向けて突き立てた。
「セイウン=アドゥール、覚悟しろ」
ロウマは敵の名を呼んだ。
短剣が、ろうそくの灯りに照らされて、妖しい光を放った。
***
「駄目だ。諦めろ」
「どうしてですか?」
シャニスの反対意見に対して、ナナーは疑問をぶつけた。シャニスの幕舎の中にいるのは彼とナナーだけだった。突然の客人がナナーだった事にシャニスは驚いたが、もっと驚いた事は、彼女が医術を学びたいということだった。
理由を尋ねたところ、ナナーはロウマの病気を治したいということだった。それを聞いた瞬間、シャニスは彼女の要求をはねつけた。
「諦めろ。それしか言う事がない」
「納得できません。説明してください」
「他に誰に頼んだ?」
「昨日、ハルバートン家のレイラさんにも頼んだのですが、同じように断られました。どうして駄目なのですか?教えてください」
すさまじい剣幕だった。これがかつて、ロウマをぞんざいに扱っていた女なのだろうか、とシャニスは疑問に思った。




