第六章 ロウマとナナー①
フェルナンの到着からしばらくして、敗走の報告が届いた。ユースチスは戦死したので、オルバス騎士団は撤退した。報告書に目を通していたロウマは、深い溜息をついた。側に控えているシャニスは何もしゃべらずに直立不動でいた。
「語ることは以上か?」
ロウマは報告に来たフェルナンに尋ねた。
「お願いがあります」
「何だ?」
「一刻も早く新しい団長を派遣してください」
「分かった。適任かどうか分からないが、すぐに後任の者を派遣する」
ロウマが羊皮紙に了解のサインをすると、フェルナンは素早く幕舎から退出した。その場にいるのは、ロウマとシャニスだけになった。
「右宰相……いえ、元帥。誰にしましょうか?」
「もう決めた。何も心配する事は無い」
ロウマが言うと、シャニスは頷いて再び黙った。しばらくすると、ロウマは咳き込んだ。胸にかすかな痛みがはしった。
「大丈夫ですか?」
「ただの咳だ。心配するな」
ロウマは手でシャニスを制した。
下がったものの、シャニスの心配そうな表情は変わっていなかった。
「シャニス、人の運命というものは分からないものだな」
「はあ……」
「脱走という罪を犯した私が、元帥になってまた軍を率いることになるなんて」
「当然ですよ。元帥でないとこの軍は統制がとれませんから」
「私でないとか……早くお前にも軍全体の統制がとれるほどの人物になってもらいたいな。お前だけではなく、キールやゴルドーにもな」
ロウマは苦笑した。結局、あの場で死ななかった。ラジム二世からは、額を少々斬られる程度で済まされた。さらに元帥の位をもらった。ラジム二世が言っていた死罪の宣告の内容は、戦場で死んで来いという意味だった。しかし、彼は自分が簡単に死なないことを知っている。




