飛翔する獅子⑫
「ここから射るのか?」
「ああ。ユースチスを射れば、この戦は終わる。見せてやるよ。セイウン=アドウールをいう男を」
セングンから弓矢を受け取ったセイウンは、再び見下ろすと息を吸い込んだ。
「よく聞け、お前達!」
あまりにも大きい声だった。エレンとセングンは思わず、両耳を押さえてしまった。こんな気迫のセイウンは初めて見た。
城壁で戦っていた敵も味方も、思わず顔をセイウンに向けた。
「いいか!俺はクリスト=フォスターの息子だ!だがな、セイウン=アドゥールという一人の男でもある!よく見てろ!」
セイウンは、弦を引き絞った。この一発に全てを賭ける。外してしまったら、終わりだと思え。狙いは馬上のユースチスただ一人。
きりきりと引き絞る音が耳に入って来る。当たれ、当たれ、当たるんだ。
ひゅっ。
一箭が放たれた。矢はそのまま、まっすぐ突き進んだ。全ては勝利のために。
ユースチスも矢が来ていることに気付いたのか、剣を振り上げた。
一瞬の刹那。
馬上からユースチスが落ちていった。彼はそのまま、乾いた地面に、その身を落としていった。
「これが俺だ!」
城塔でセイウンが叫ぶと同時に、反乱軍の勢いがついた。これで反撃ができる。
セイウンは旗を見上げた。旗の獅子は今にも飛翔しそうだった。
***
ユースチスは馬上から落ちた。周囲では付いて来た部下が自分を取り巻いていた。声をかけられているが、ユースチスは何も答えることができなかった。
これでいいのだろう。これで満足か。ユースチスは頭の中の民に語りかけた。民は自分に語りかけてきたのであった。
死ねと。
民は頷いた。うつろな目でもあったし、悲しい目でもあった。何も悲しむ必要などない。自分が死んでこそ、民も満足なはずである。
一瞬だったが、ロウマの顔が頭の中をよぎった。はっきり言って、父親のジュリアスと似ていない。まだ優しさと甘えが残った小僧である。
だが、ジュリアスに無い何かを備えているかもしれなかった。
「お前に、あの城が落とせるのか……」
今のは口から出た言葉なのだろうか。それとも心中の叫びなのか。
死にゆくユースチスにはもう分からなかった。




