飛翔する獅子⑪
エレンが顔を上げると、騎士が一人いた。
外見はサイスと同じくらいの中年の男だった。騎士は残りのレストリウス兵を剣で次々と両断していった。
「あの……」
エレンが礼を述べようとしたが、騎士は素早く立ち去った。エレンは騎士に生き延びてもらいたい、と心から願った。
セイウンは城塔でジャグリスを振るっていた。五人の敵が、セイウンに向かって来た。敵の目的は城塔に掲げている旗を奪うことだった。一人目をジャグリスで突いたセイウンは、二人目も一気に殺し、三人目も突き伏せた。残りは二人だったが、もう疲れていた。
「セイウン!」
エレンがセイウンの加勢に入った。同時にセイウンも駆けた。敵兵二人は瞬く間に、セイウンとエレンの手にかかった。
「遅いぞ、エレン」
「敵に邪魔されていたのよ。あんたこそ、あの程度の連中に手こずらないでよね。私の自慢の旦那なんだから、しっかりしなさいよ」
「分かっているよ」
セイウンは、にやりと笑った。城塔から戦況をうかがったが、やはりよくなかった。兵士達に疲労の色がうかがえる。城門方面から太鼓の音が二度鳴った。もうすぐ城門が破られるという危険の知らせだった。
冷や汗を流しているセイウンの目に、騎馬の部隊が映った。異様な気を放っている。まるで、己の気力を全て使うかのように城に向かって来ていた。先頭にいるのは、初老の男だった。セイウンは目がよい方だったので、遠くからでも男がの姿が確認できた。
あの男がおそらく、大将のユースチスなのだろう。そうに違いない。凄まじい闘志である。城門を破ったら突入してくるつもりだろう。そして自分の首をとるつもりだ。いや、つもりではない。絶対にするのだ。
「セイウン、どうかしたの?」
「エレン、弓はあるか?」
「持ってないわ」
「そうか……」
「弓ならここだ」
いつの間にやって来たのか、体中を血で濡らしたセングンが後ろに立っていた。左手には弓矢がしっかりと握られていた。




