飛翔する獅子⑨
突然頭の中の民が、ささやくように語りかけてきた。それはユースチスにとって心地のよい響きにとれた。
「行くぞ」
椅子に腰掛けていたユースチスは、立ち上がった。
「どこに行かれるのですか?」
突然の行動に騎士の一人が声をかけた。
「お前達、騎士は何を本望にしているか分かるか?」
「戦場で華々しく散ってみせることです」
「その通りだ。ならば、これから私のすることに何も異論を唱えるな」
その騎士はユースチスが何をしたいのか悟った。彼の目はずっと、城に向けられていた。
ユースチスは騎乗すると剣を抜いた。剣は四十年以上も傍らにいる相棒だった。欠けたり折れたりする度に、研いでいった。おかげで、よく斬れるようになっている。
ユースチスに続くように、何人かの騎士が騎乗していった。
「お前はロウマのところに向かえ。そして私の最期を報告しろ」
最後に騎乗しようとした若い騎士に対して、ユースチスは言伝を告げた。
「俺はお供できないのですか?」
「そうだ」
「俺が役立たずだからですか?」
「違う。いずれ私の後任が来るはずだから、お前はその者を支えていくのだ」
「俺がですか?」
「お前は誰かを補佐するというのは上手だ。その力をこれから精一杯使ってくれ。新しい世代を生きる者としてな。後は頼んだぞ、フェルナン」
ユースチスは若い騎士の名前を口にした。
「はい」
フェルナンは返事をした。
ユースチスは馬腹を蹴ると駆けた。一気に駆け抜ける。闘志はユースチスの体中にみなぎっていた。
***
セイウンは徹底的に敵を愛槍ジャグリスで突き伏せた。城壁を登って来ようとする者、登って来た者、誰だろうと容赦しなかった。傷を体中に負いながらも奮戦した。




