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それぞれの出発④

 かつんと音がした。どうやら靴音のようである。音源が向かいからだったので、セイウンは目をこらした。


 セングンだった。男を一人伴っているが見たことなかった。男の衣服は、ぼろぼろでほおも削げており、まるで死地から生還してきたという感じだった。


「ハイドン、帰って来たのか?」


 バルザックが尋ねた。どうやら男の名前は、ハイドンというらしい。


 ハイドンは、セイウンの前に一歩進み出た。


「あなたがセイウン=アドゥール殿ですか?」


「そうだけど……」


「はじめまして。私の名前は、ハイドン=ラクシャ―タ。バルザック殿の古い知り合いです。彼に誘われるまで闇商人の元締めをしていました」


「へえ、バルザックの友達か。よろしくな、ハイドン」


 セイウンが挨拶をした途端、ハイドンは手の甲を見せた。手の甲には、薄くなっていたが刺青いれずみがしてあった。セイウンはその刺青に見覚えがあった。クルアン王国の奴隷の証である刺青だった。薄くなっているのは、消すために無理やり自分で傷付けたためだと考えられる。


「お前……」


「生まれはこんな感じですけど、これからもよろしくお願いします」


「馬鹿だな。そんな事を気にする場所じゃないぜ。よろしくな」


 セイウンとハイドンは、握手をした。硬い手をしている男だった。日々労働に従事していた証拠の手である。よほどつらい目にあったのだろう。


「ハイドン、俺の目標は争いの無い平和な世界を創ることだ。その世界は奴隷も無い世界だ。必ず創ってみせる。だから付いて来てくれ」


「楽しみにしていますよ。その夢が叶う日が来ることを」


 手を握られた状態のまま、ハイドンはにこりと笑った。


 だけど、信じている笑みではなかった。奴隷が無くなるとでも思っているのかという怒りと皮肉の交差した笑みだった。笑みを数秒も直視できないまま、セイウンとハイドンの握手は終わりを告げた。

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