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飛翔する獅子⑧

 ユースチスは溜息をついた。ジュリアス=アルバートが生きていたら、どうしただろうか。敵の一番弱い箇所を突いたのではないだろうか。間違いなくそうしたはずである。


 しかし、ユースチスにはジュリアスほどの眼力が備わっていなかった。悲しいものだった。騎士になってからすでに、四十年以上の月日が流れているが、目立った活躍の場は無く、ただ昇進するだけだった。


 自分は何をしていたのだろうか、とユースチスは考えた。ただ己の身の安泰だけを願っていただけではないのか。騎士団の団長になるだけで満足していたのではないのか。頭痛がした。どうも首都ダラストから戻って以来、体調が優れなかった。風邪でもこじらせたのだろうか。少々めまいもするので、休みたかったが今は戦の最中なのでそうはいかなかった。


 脳裏に、ロウマの行った無謀な策で犠牲になった民の顔が浮かんだ。みんなユースチスをうらめしそうな顔で見ている。まるで自分達が死んだのは、お前が原因だと言わんばかりの表情だった。


「違う」


 ユースチスは思わず独り言を呟いた。あの時自分は、病床の身にあってとてもじゃないが、軍を動かすことのできる状態ではなかった。恨むのは自分ではなく、ロウマであるはず。


 だが、脳裏に浮かぶ民はしきりに首を振っている。違うのなら、誰が原因だと言うのだ。やはり自分なのか。このオルバス騎士団団長のユースチスなのか。


 脳裏の民は頷いた。


 違う。自分ではない。なぜ自分になるのだ。自分だったら、あのような無謀な策はとらない。


『だったら、お前はどういう策をとっていたのだ?』


 脳裏の民がユースチスに語りかけた。ユースチスは急な質問に対して、答えるすべが無かった。自分だったら、どういう策だったのか。考えたが、彼の頭には何も浮かんで来なかった。あるのはただの虚無感だった。


 何も出ないということは、ロウマの行ったことは、正しかったのか。正しいが故に、頭の中の民は自分を否定するのか。


 ユースチスは頭を抱えた。


 近くで見ていた兵士が心配して声をかけているが、彼の耳には何も入ってなかった。

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