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飛翔する獅子④

 城壁の守備隊から笑い声がもれていた。


「これから戦が始まるというのに、こんな風にふざけて大丈夫なのだろうか?」


 ぼやいたサイスが横を向くと、バルザックが顔を伏せて震えていた。


「バルザック、笑っている場合か?」


「笑っている?何を言っているのですか。俺は今、感動しているのですよ」


「今の演説のどこに、感動する要素が含まれていたんだ?」


「分からないんですか。あれはセイウン殿のパフォーマンスです。ああやって周囲に笑いをばらまくことで、兵士達の緊張をほぐしてやっているのですよ。いやあ、実にセイウン殿らしいやり方だ」


 サイスにはとてもじゃないが、信じられなかった。あれはどう考えても、本当に忘れていたんだ。これはセイウンの父親のクリストを知っている自分だからこそ分かるのである。


 しばらくするとセイウンが再び登場した。痛そうにほおをさすっていた。おそらくエレンにひっぱたかれたのだろう。


「あれもパフォーマンスか、バルザック?」


「間違いありません。エレンにも協力してもらったのでしょう。さすが息の合った二人でないとできない至難の演出です」


 臆することもなく言ってのけた。この男の崇拝精神には感服する。サイスは溜息をついた。


「みんな、すまない。さっきはセングンの書いた下手な台本を読まされたおかげで醜態をさらしてしまったよ。おかげでエレンにも、ぼこぼこだよ」


「おい、今のはどう説明するんだ、バルザック?」


「サイス殿、パフォーマンスです」


「どうしてもそれで押し切るつもりか?」


「いけませんか?」


「もういい」


 反論するのも馬鹿らしくなったので、サイスはこの議論をやめることにした。とりあえず、セイウンの演説に耳を貸すことにした。


 セイウンは、先ほど立てた旗に手を触れた。


「みんな、俺がこの旗の獅子に翼をつけたのには、理由がある。知っての通り、この反乱軍は以前、レストリウス王国で獅子が獲物を求めるように暴れ回った。でも、結局負けた。おかげで獅子は地面にたおれた」


 セイウンは旗の軸を強く握り締めた。

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