飛翔する獅子③
旗に描かれているのは、白い獅子だった。
「ほう、白い獅子か。クリスト殿の時と同じものだな」
感心しているガリウスとサイスの横で、バルザックが反論した。
「違う。あれはクリスト殿の時と同じ旗ではありません。よく見てください、サイス殿」
「なんだと?」
「あの獅子には、翼が付いているのです」
目をこらしてよく見たサイスは、バルザックの言ったことが嘘でないのが分かった。確かに獅子には翼が付いていた。それも大空に飛翔しそうなほどの大きな翼だった。
今にも飛翔して、獲物に飛びかかりそうな勢いである。サイスは自分が獲物になったような気分に陥った。
城塔のセイウンが立ち上がり兵士達に向かって檄を飛ばした。
「これが今日からお前達のシンボルだ。お前達はこの旗のもとに誇りを持って戦え!敵には怖れを持たずに立ち向かえ。何があっても最後まで諦めるな。たとえお前達自身が死んでも……ええと……」
勇ましく演説をしていたセイウンが突然、口ごもってしまった。セイウンは懐をまさぐって何かを取り出した。それに目を向けて数秒後、再び演説に戻った。
「たとえお前達が死んでも、誇りは死ぬわけではない。それと……」
また行き詰ってしまったので先ほどのものに目を向けていた。聞いていた一同は、そこでようやくセイウンが何を見ているのか理解できた。
「台本を読んでいるぞ」
サイスは呆れてしまったが、思い出すことがあった。セイウンの父のクリストも、演説の際によく詰まってしまい、みんなの目の前で、台本を出して読んでいたのである。
「おい、セングン。この字が読めないのだけど、なんて書いているんだ?お前の国の文字だろう。できればクルアン王国の文字で書いてくれよ。それとここに書いてあるセリフだけど。じじくさいぞ」
文句を述べたのと同時に、セングンが出て来て手刀をセイウンの眉間に入れ込んだ。
「馬鹿かお前は!演説を台無しにしてどうする。それから僕の書いた台本にけちをつけるな!」
結局、セイウンはセングンに引きずられて城塔から姿を消した。




