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第五章 飛翔する獅子①

 進発したオルバス騎士団の軍勢は一万だった。こっちの兵力の二倍以上である。歩兵、騎兵をそれぞれ半数に分けていた。総指揮官は、オルバス騎士団の団長のユースチス。


 甲冑で身を固めたセイウンは、愛槍のジャグリスを握った。かつて父のクリストが戦場で振るった白銀の槍である。幾多の敵が、この槍の前にたおされたのか、今ではそれを知ることができない。


 握ると重かった。槍自体の重さでないのは、前々から分かっていたセイウンだが、月日が流れるたびに重さが増してゆく。その重さは、ジャグリスが語りかけてくるみたいである。


 ドアが開いたので、セイウンが目を向けるとエレンだった。彼女もセイウンと同じように、甲冑に身を固めていた。


 だが、甲冑というより、ドレスに近かった。晴天の空のように青い甲冑ドレスだった。セングンが故郷から取り寄せた特注品である。


「よく似合っているぜ」


「そう?私は動きづらいのだけど。本当にこんなもので戦えるのかしら?できれば、あんたと同じものがよかったわ」


「そう言うなよ。せっかくセングンが取り寄せてくれたのだから」


「そうね」


 エレンは頷いて納得した。


 これからいよいよ本格的な戦が始まるのだ。果たして勝てるのだろうか。調練のようにやり直しがきくものではない。


 一度でも負けたら終わりだ。そうなると、自分だけでなくエレンもセングンも他のみんなも死なせてしまうことになりかねない。全ては自分にかかっている。拳を握りしめた。すぐに温もりが返ってきた。エレンがセイウンの手を握っていたのである。


りきまないの。あんたは昔から何かあると、すぐに力んでしまうから悪い癖よね」


「すまん」


「気持は分からないこともないけど、緊張するのはよくないわ」


「そうだな……」


「悩むなんて、あんたらしくないわよ」


「俺でも悩む時ぐらいあるよ」


「あらそうだったの?てっきりこんな時でも、スケベなことを考えているかと思ったわ。なんたってあんたの頭は、そればっかりだからね」


「どういう事だよ?」


「どういう事って、そういう事よ」


「俺だってまじめに考える時はある。馬鹿にするなよ!」


 憤然としたセイウンにエレンがくすりと笑いかけた。


「何がおかしいんだよ?」


「少しは緊張が解けた?」


「えっ?」


 驚いた事に、さっきまで硬直していた体がほぐれていた。この時になりエレンはわざと自分を挑発したのだと気付いた。

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