ロウマの帰還⑪
いや、一人だけいた。キールはその人物の登場を待っていた。
突如、耳をつんざくような音がした。
振り返ると、ラジム二世が剣を鞘から抜いていた。彼の足下には先ほどまで座っていた椅子の残骸が転がっていた。
「貴様達は会えば、けんかしかできないのか?そんな事だから、この国は乱れたのだ。今回の一件はロウマだけではなく騎士、貴族全員の連携の足りなさにある」
ラジム二世のひとにらみの前に、全員後ずさりしてしまった。グレイスさえも、引き下がらざるをえないほどだった。
ロウマは足がすくみそうだったが、必死に耐えた。喧騒はやんだが、全員の心にしこりのようなものを残した。
「ロウマ、貴様は今の自分をしっかりと理解しているか?」
「はい」
「よかろう。ならば話は早い。貴様に与えるものは死だ」
ロウマは何も驚いていなかった。すでに覚悟はしていた。
「陛下、どうかそれだけは……」
「余は貴様と話をしているのではない、シャニス」
「陛下!」
「ロウマ、前に出ろ」
頷いたロウマは、前に出た。怖いものなど何もなかった。自分はただ向かうべき場所に向かうだけ。横ではシャニスがわめいていたが、ロウマはそれも気にせず前に出た。
グレイスとゴルドーは黙っており、目は座っていた。見届けるべきものは見届けるというものだった。
ロウマは外に残したナナーとアリス、シャリーの三人に、ロバートなど世話になった者の顔が浮かんだ。よい連中と出会えただけでも自分は幸せだ。何も残すことはない。この体も自分がいた証拠も。
『さて兄弟、俺達はどうなるのかな?一緒に消えるのかな?それとも誰かが生き残るのかな?』
『できれば僕は、一緒にお供がいいな』
頭の中にいるラトクリフとベサリウスがぼやいていた。どうやら彼らも覚悟は決めているようだ。
ラジム二世の剣が振り下ろされた。
剣から放たれた小さな閃光が、ロウマを包んでいった。




