ロウマの帰還⑩
けれども、それも父の持ち味だったと思えば、大して気にすることではない。
「さてと、全てを話してもらおうか」
ロウマはこれまでのいきさつを、全て漏らさずに話した。途中、病気の話になると、シャニスやゴルドーの唸る声が聞こえたが、無視して話を続けた。
語り終えると、ロウマは一息ついた。ほんの少しの間しか話してないのに、一時間も演説をしていたような気分だった。
「その病気は今、レイラという女の薬で抑えているのですね」
「そうだ。劇薬ではないようだから安心しろ、シャニス」
「そうですか……」
納得してないような表情のシャニスだったが、とりあえず理解はしたようだ。
「やっぱり治らないのかよ、ロウマ?」
今度はゴルドーだった。
「ああ。今は抑えているが、それもいつまで持つか分からない。薬が効かなくなった時が、みんなとはお別れだ」
「そんなのありかよ!」
拳を震わせながら、ゴルドーが叫んだ。彼が拳を震わせているのは、不治の病で苦しんでいる友に対して、自分が何もしてあげる事ができないので起きた純粋な怒りだった。
「ゴルドー、お前も騎士なら人の死を覚悟しろ。いつ死ぬか分からないのは、みんな一緒だぞ」
ロウマが一人で怒っているゴルドーをたしなめた。
「だからといって、理不尽すぎないか。ロウマは悪い事をしたわけでもないのに、何でこんな目に遭わなければいけないのだよ!」
ふざけるなと叫ばんばかりに、ゴルドーは地面を強く踏みつけた。
彼の肩にグレイスが手を置いた。
「みっともないぞ。右宰相はすでに覚悟を決めている。我々も彼に付いて行くだけだ」
「とんだ茶番劇だな」
口を挟んだのは、ブランカだった。彼の表情はさっきまでのあざけりのものではなく、怒りと憎しみに満ちた憎悪の表情になっていた。
「悪い事をしてないだと?ふざけるな!貴様のせいで何人の貴族達が犠牲になったと思っているんだ?貴様の右宰相就任に反対した者は、ことごとく処断された。さっきからそこに何事もなく立っているシャニスやグレイスによってな」
「悪いか?」
ロウマが言った。
「何だと?」
「邪魔だったんだ、お前達が。理由はこれでは不満か?」
「あの時と一緒だと思うな。今度はお前を消せる立場にいる。私の命令が下れば、お前なんてあっという間に処刑場だ」
「どこの悪党だ、貴様は?貴様の首なんて落とすのは簡単だぞ。図に乗るな。不逞貴族め」
場が水を打ったように静まり返った。この場を収めることができる人物はいないのだろうか、とキールは冷や汗をかいた。




