ロウマの帰還⑨
しかし、こいつを斬ったところで意味は無いし、自分の剣のリオン=ルワも汚れるだけだ。ロウマはあふれ出る怒りを抑えて、握っていた剣の柄から手を離した。
「ほう。少しは成長したようだな」
ロウマは何も返さなかった。ブランカと言い合いをするのも、むなしく感じてきていた。今はこの場から去った方がよいかもしれなかった。
「どこへ行く、ロウマ?」
どすの利いた声が耳に入って来た。声は近くの幕舎からだった。ロウマは震えた。
これほど相手を震え上がらせる感じの声は、ロウマが知る限りではレストリウス王国には一人しかいなかった。
案の定、出て来たのは国王のラジム二世だった。
「陛下、私は……」
「幕舎へ来い。ある程度、話はそこで聞く」
ロウマは言われるがまま、ラジム二世の幕舎へと向かった。シャニス達も後に続いた。幕舎に入るとラジム二世は、椅子に腰かけた。ロウマ達は立ったままである。
「ロウマ、左腕はどうした?手袋なんてはめているようだが」
鋭い観察眼だった。確かにロウマは義手を隠すために、手袋をはめていた。早くもロウマの左腕に着目するとは、やはり侮れない人物である。
着ている衣服に手をかけたロウマは、一気に脱ぎ去って上半身に裸になった。
ロウマの左腕の異変に、シャニス達は唖然とした。ただし、ブランカだけは鼻で笑っていた。「つぎはぎ人形」、と呟いたのをロウマは聞き洩らしていなかった。
「この通りですよ。左腕を無くすことで、自分にけじめをつけました」
「『けじめ』か……そのけじめはなんだ?余に説明してみせろ」
「いかなることがあっても、逃げない事です」
「言うだけの事は言うようになったか。お前の父親だったら、面子を気にして、そんなことは口にすら出さなかっただろう」
「そうかもしれませんね」
確かに父のジュリアスは面子を気にする性格だった。ところどころに、そんな節があった。




