ロウマの帰還⑦
ナナーはロウマの前に出た。
「私はあなたが無事に帰って来る気がするわ。根拠は無いけどね」
「それは嬉しいことだ。できればそうであってほしいな」
突如、ロウマの唇に温もりが伝わった。ナナーがロウマの唇に自身の唇を重ねたのであった。
ロウマも自然とナナーを抱きしめた。
アリスとシャリーは二人の抱擁を見ても何も言わなかった。目だけは今回は特別、と言っているのがロウマには分かった。
ナナー達と別れたロウマは、すぐに野営地に馬を飛ばした。入口に着くと、見張りの兵士達がロウマに槍を向けた。
しかし、兵士達は彼を見た瞬間、顔色を変えた。あわてて槍を下げると、すぐに道を空けた。
頭を下げたロウマは、野営地に入った。
壮絶な光景だった。野営地の兵士達は普通に動いているが、動きに活発さがなかった。まるで操り人形が動いているかのようだった。
無味乾燥である。これが自分がいないために起きた異変なのか。ロウマはようやく今になり、事態の深刻さに気付いた。
その時、一人の兵士がロウマの方を向いた。見覚えのある兵士だった。確かゴルドーの部隊にいた兵士である。
「みんな、ロウマ右宰相が戻られたぞ!」
周囲の兵士達もロウマの方に目を向けた。途端に一斉にひれ伏した。
「右宰相!」
聞き覚えのある声がした。
「シャニス……」
久し振りに見るシャニスの姿だったが、ロウマには十年も時が流れたかのように見えた。それだけシャニスは痩せていた。
シャニスは兵士達と同様に地面にひれ伏した。もしかしたら涙でも流すのではないのかとロウマは疑った。あり得ない事もなかった。それだけシャニスは大げさなのである。
「ご無事で……」
「シャニス、私は……」
「ようやく帰って来たか、大馬鹿野郎!」
大声を上げてやって来たのは、ゴルドーだった。彼と一緒にグレイスもいた。彼らも微かであるが、頬がこけていた。
「よく生きて帰りやがった。お前がいない間、大変だったんだぞ。一発ぶん殴ってやりたいところだが、どうもそうはいかないようだ。俺の横にはグレイスのおっさんがいるからな」
「そういう事だ。指一本でも触れてみろ。その時は間違いなく、お前の指は十本とも無くなっているはずだ」
「ゴルドー、グレイス……」
グレイスも地面に跪いた
「よく帰って来られました、ロウマ右宰相」
「グレイス、今の私はお前の主として十分だろうか」
「もちろんです。なんと言っても、私を屈服させた男なのですから」




