ロウマの帰還⑤
「ロウマ様、やっぱり私の料理が一番おいしいと思ってくれているのですね」
アリスだった。
やはりこのみそ汁を作ったのは彼女だった。早い話、彼女はナナーとシャリーの料理がよくないと分かっていたので、自分の料理を隠し玉として用意していたのである。見た目によらず、腹黒い奴だとロウマは身震いした。
ナナーとシャリーに目を向けたが、二人はロウマをうらめしそうに見つめていた。
「なかなか個性的な味だったぞ」
「何よそれ?全然ほめてないわよ」
「師匠、逆に私の心が潰れてしまいそうです」
場に気まずい空気が流れた。この状況を打開する一手はたった一つしかなかった。ロウマは、ナナーの作った料理の皿に手を伸ばすと、食事を再開した。次にアリス、その次にシャリーだった。一口食べれば、別の皿に切り替え、また一口食べれば別の皿に切り替える。
それを何度も続けた。けれども、味が混ざっておいしくなかった。
「何をしているの?」
疑問に思ったナナーが尋ねた。
「せっかくお前達が一生懸命作ってくれたのに、一人の皿だけに集中するのはよくない事だ。三人平等に食べているのだ」
「ロウマ……」
「ロウマ様……」
「師匠……」
我ながらよくやったと自画自賛した。自分は小食なので相当きついが、三人を満足させるために食べるのみである。
ロウマはさらに、箸を進めた。
「それで喜ぶとでも思っているの?」
ナナーが冷たく言い放った。
「何だと?」
「ロウマ様、随分と陳腐なことを思いつきましたね」
「師匠にしては、考えていることが古臭いですよ。女を馬鹿にしている証拠ですね」
三人の冷たい言葉が、ロウマの胸に次々と突き刺さった。別に馬鹿にするつもりはなかった。逆に気まずい現状の回避のために、わざわざこんなことをした自分が馬鹿みたいである。
ロウマは段々と目頭が熱くなってきた。




