第四章 ロウマの帰還①
オルゴールは、いつも通り作動している。どこの誰か分からない人物の手によって作られた曲が、箱から奏でられていた。
並んでいる箱は二つ。
一つは包み込むような優雅さ、もう一つは激烈な感情を押し殺しているような悲しい音色をしていた。
ロウマは二つの箱を閉じた。これを自分に売った男の顔が、脳裏に浮かぶ。自分を殺しにやって来た男だった。失敗して逃げたが、また狙って来るはずである。
以前は自身の能力で防ぐ事ができたが、今度は防げるかどうか分からない。しかし、どんなことがあっても防がなければならない。自分には守るべき者が多くいるのだから。
「どうしたのですか、ロウマ様?」
アリスが声をかけた。彼女の声で、ロウマは我に返った。
「何でもない」
「そうですか?とても真剣な顔をしていましたので、心配しましたよ」
「私はいつもこんな顔だよ。固い男だからな」
「それもそうですね。あっ、すみません」
「いや、いいさ。当たっているのだから。それよりも、食事はまだかな?」
「もう少しですよ。ナナーとシャリーの二人が、苦戦していますので」
「それなら、まだ待つとするか」
ロバートの屋敷を出発してからすでに、十日たった。あと二、三日でレストリウス王国の領内に入る。
ロバートはなるべく近道をしていた。地図で確認すると、最初に足を踏み込む土地はオルバス騎士団の領内だった。オルバス騎士団の団長は、ユースチスである。父のジュリアスの代から仕えており、十七年前も父に従って反乱軍を討伐していた。
ロウマはユースチスに会いたくなかった。怖いのである。一つの賊を潰すために、一つの村を犠牲にした。賊を討伐した後のユースチスの手紙の内容は、ロウマの脳裏に焼き付いていた。
殺意を含んだ文字だった。一つ一つの文字に、自分を殺しかねないほどの勢いがあった。ロウマはろくな弁解の余地もなく、最善の策だったと書いて返事を送った。
だが、やはりあれしか最善の策はなかったのである。おそらく、ユースチスは今でも自分のことを許していないだろう。




