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地方と中央⑨

 だが、あれしか本当に策がなかったことは事実だった。用心深い賊だったのをキールは覚えていた。何度挑発しても出て来る気配がなかったので、軍議の結果、村を一つ犠牲にするという行動に出た。


 賊を討伐した後、犠牲になった村の様子を見に行った。村の壊滅状況を見た時、キールは立ってられず、吐き気に襲われ、胃の中のものを地面に全て吐き捨てた。一緒にいたシャニスやゴルドーも同じ状態だった。


 おかしいものだった。戦で遺体なんて見慣れているはずなのに、その時はまるで初めて戦に出た時の気持に似ていた。


 ただ、ロウマだけは顔色一つ変えずに立っていた。何も考えていないような表情だった。


 いや、本当は何か考えていたのではないだろうか。


 というよりも、彼は泣いていたのかもしれない。人の心なんて読む事ができないからキールには分からないが、あの時のロウマは、心中で涙を流していたのではないだろうか。


「どうかしましたか、左宰相?」


「何も……」


「そうですか。それはそうと、ブランカ殿も私に何か用があるのではないですか?」


 ユースチスはずっと黙っているブランカに尋ねた。


「左様。ユースチス団長には、あらかじめ尋ねておきたいことがあります」


「なんでしょうか?」


「次の団長を誰にするかです」


 キールは、はっとした。ブランカの言った事はまるで、ユースチスが今回の戦いで死ぬと言っているようだったからである。


「待て、ブランカ」


「君は黙っていてくれ。これだけは知っておかねばならない。お答えください、団長」


「なるほど。ブランカ殿の言う通りだ。生憎あいにく私の軍には後を継ぐほどの力量の者はいない。そこで頼みがある。左宰相でもブランカ殿でも、これぞと思った者を見つけ次第、その者を新しいオルバス騎士団の団長にしてくれ。もちろんレストリウス王国内でも外から来た者でも構わん。これは私の遺言と思ってくれ」


「かしこまりました。その遺言は、果たしましょう。キール、君も了解したと言うんだ」


「了解しました」


 キールは頭を下げた。下げた拍子ひょうしに、しずくが一滴垂れた。だが、仮面で隠しているため、その雫は誰にも気付かれることはなく床に落ちた。

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