表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/158

それぞれの出発②

 その時、雷が鳴った。


 父は一瞬であるが、ひるんだ。エレンは、それを見過ごさなかった。脱兎の如く駆けた。遠くから父の叫び声が聞こえるが関係なかった。


 とにかく駆けた。落ちた涙は、降ってきた雨に混じって消えっていった。




     ***



 セイウンは、目を覚ました。周りは薄暗く、まだ日は昇っていなかった。こんなに早く目が覚めるなんて、久し振りだった。


 妙な夢だった。夢の中で自分はエレンになっていた。夢であるはずなのに、現実味があった。背中にじっとりと寝汗をかいており、衣服が肌に張り付いていた。


 夢の中に出て来たエレンの父親である男。どこかで見たような顔をしていた。気のせいだろうか。


 いや、あの顔は絶対にどこかで見た顔だ。それも昔ではなく、つい最近である。結局、思い出すことはできなかった。体にまとわりついた寝汗は、気持が悪く着替えないと駄目だった。


 セイウンは、真横に目を向けた。


 エレンは安らかな寝顔をしていた。体をセイウンに預けるようにして寝ている。エレンと出会ってから十年の月日が流れていたのだ。十年なんてあっという間である。


 自分もエレンも、こんなに大きくなって、気が付けば結婚までしていた。世の中、分からないものだった。


 なんだか無性に腹が減ってきたので、厨房ちゅうぼうに何か残り物がないか探しに行くことにした。ベッドから出たセイウンは衣服を着替えた。もうすっかり秋だった。明け方は特に冷えるものである。


 ぶるぶる震えながらセイウンは、部屋をあとにした。


「おはようございます、セイウン殿」


 後ろから声をかけられたので、振り向くと、バルザックだった。


「バルザックか。おはよう。こんな朝早くからご苦労だな」


「セイウン殿も、朝早くから起きて、どうしたのですか?さては見回りですね。素晴らしいことです。兵士達もおそらく、あなたを尊敬して今後は早起きを心がけることでしょう」


「違う、違う。俺はただ腹が減ったから、厨房に行こうとしているだけだ。普段はこんなに早く起きないし、いつもエレンに起こしてもらっているよ」


「それは残念です。ならば、これからは早く起きて、兵士達を叱咤激励しったげきれいしてください。兵士達もきっと見習うはずです」


「勘弁してくれよ。俺が過労で倒れちまうし、ここの兵士達は俺に対して少しも敬意なんて持ってないよ。俺をよってたかって窓から突き落とそうとする連中だぞ」


「それはセイウン殿が、兵士達にとって接し安い証拠ですよ。下手に頭領面とうりょうづらしているよりも、ずっとましです。安心してください。あいつらはあなたに十分敬意を持っています。セイウン殿が気付いてないだけです」


「そうかな?」


「そうですよ。自信をたっぷり、持ってください」


 バルザックが言うならば確かだろうと思ったセイウンだったが、わずか数秒で考えを撤回した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ