地方と中央⑧
ユースチスは、あっさりと承諾してくれた。
三人が向かった店は、以前キールとブランカが食事をした場所だった。キールは、適当に酒と食事を注文した。やがて注文したものが運ばれて来た。
「うまそうだな」
ユースチスが顔をほころばせた。さっきまでロウマを批判していた時とは打って変わっていた。あまりの事に、キールは驚きを隠せないでいた。
「まずは乾杯」
ブランカが音頭をとって三人は乾杯した。
「ああ、うまい。やはり誰かと共に飲む酒は格別だな。もう何年も、数人で酒を飲んでなかった」
「何年もですか?」
「不思議な事ではない、キール左宰相。私の同僚はここ何年かの間に、みんな亡くなってしまった。残ったのは私一人だけだ」
そういう事だったのか、とキールは納得もしたが溜息も出てしまった。自分もいずれ、こんな風になる時が来るのだと考えさせられてしまう。シャニスもゴルドーも特殊能力者だが人間である。
いずれは寿命が来る。気が付くと、自分一人だけになっている可能性もあるし、ましてや自分が先に死ぬことだってある。
キールの脳裏にロウマの姿がよぎった。彼はどうしているだろうか。グレイスが行った時はまだ生きていたが、今はどうなっているか分からない。
できれば、帰って来てほしい。
そして、謝りたい。罵倒されてもかまわないし、打ちのめされてもよい。仮面の下の顔は半分は焼けて半分は無事だが、彼になら完全に焼かれても構わなかった。
とにかくロウマと和解したかった。
「ところで、私を呼んだのは何か用があるのか?」
はっとしたキールは、すぐに用件を思い出せなかった。
ブランカは横で黙って酒を飲んでいた。キールの口から言わせる気だったので、口出しはしないのである。
「はい。実は、あなたの領内での賊を討伐した時のことですが……」
「やっぱり聞きたくない」
「えっ?」
「その一件はやはり何度聞いても、気分のよいものではない。ましてや実行者の一人であるあなたの口から聞くと、自己弁護のようにしか聞き取ることしかできない。悪いですが、せっかくの酒の席を汚さないでもらいたい」
「申し訳ありません」
やはり無理だった。キールはユースチスに理解してもらうことを諦めた。




