地方と中央⑥
そのころユースチスは病床にあり、満足に軍を動かして賊を討伐することができる状態ではなかった。自分の代わりに軍を指揮できる人物はいないか当たってみたが、彼の同僚のほとんどが、ここ数年で他界した者が多く、若い騎士しかいなかった。
若い騎士では力不足だったので、ユースチスは当時、右宰相だったロウマに手紙で頼んだ。彼なら大丈夫だろうと胸をなで下ろしていた。
しかし、これが最大の過ちだった。賊が全て滅ぼされたという報告を聞いた時は、嬉しかったが、策戦内容を耳にすると愕然とした。ロウマは賊を殲滅するために、村を一つ犠牲にしたのである。賊が動くまで待つ。それがロウマの策だった。
壊滅はまぬがれたが、半数の村民は殺された。憤慨したユースチスは、ロウマに抗議文を書いたが返答は、それが最善の策だったとしかなく、明確な説明に欠けていた。怒りのあまり病気が再発しそうになった。
その一件以来、ユースチスはロウマの顔を見たくもなかった。思い出すだけでも吐き気をもよおすほどだった。正直言うと、ロウマがいなくなって清々していた。二度と帰って来るなと心に願っていた。
「ユースチス団長の言いたいことは、ごもっともでしょう、左宰相」
ブランカ=カストリオがキールの前に出た。彼は現在、かつてロウマが居座っていた右宰相という役職の補佐に任命されていた。だが補佐と言っても、ロウマがいないため、彼が右宰相に変わりなかった。
「ロウマは、今まで軍事の面においては活躍しておりましたが、政事の面に関しては粗雑です。他の部署がするべきだった仕事を自分でやっていました」
「それは右宰相の優しい心が……」
「また君はそうやってロウマの肩ばかり持つのか、シャニス?いい加減にしたまえ。公と私をわきまえたらどうだ。あの男はただ、自分が全ての権力を握りたかったから、他人の仕事も奪ったりしていたのだ。そして常に、自分以外の人間を無能と見ていた」
「違う!右宰相はそんな……」
「いいえ、ブランカ殿の言う通りです」
「右に同じです」
シャニスの反論の中、入って来たのは、バルボアとユースチスの二団長だった。二人ともブランカの言ったことに対して、納得するかのように首を縦に振っていた。




