地方と中央⑤
一人の男が前に進み出た。ライル騎士団の団長バルボアだった。年齢は六十歳。招集した十五人の団長の中で最年長だった。五年前に騎士の役職は引退して息子に譲っており、現在はもっぱら事務仕事に専念していた。
「よろしいでしょうか、キール左宰相?」
「どうしました、バルボア団長?」
「クリスト=フォスターの残党と言われましたが、本拠地にしているのは、ジュリアス様が陥落させた城でしょうか?」
「そうです」
「分かりました。ならば、もう一つお尋ねします。左宰相はこの件について、随分前からご存知でしたか?」
キールは首を横に振った。実際に彼が知ったのは、十日前だった。シャニスの敗走と密偵の隊長のアラリアからの報告があったからだ。
バルボアは、ちらりと横に目を向けた。彼が目を向けたのは、同じく別の騎士団の団長だった。
「ユースチス団長、あの城は確かあなたの領内にありましたね。あなたは反乱のことについて、知っていましたか?」
「まあな」
ユースチスと呼ばれた団長は、あっさりと返答した。優雅に落ち着きをはらっており、周囲の驚きなんてどこ吹く風だった。
「ユースチス団長、あなたは知っていたのに、どうして中央まで報告しなかったのですか?もう少し早く報告していれば、僕の軍隊は半壊しなかったのに」
シャニスが声を荒げながら、ユースチスの前に出て行った。彼はあの城付近を通ったために、四年間の付き合いがある副官を失った挙句の果てに、多くの兵まで損失していた。思い出すだけで、はらわたが煮えくり返りそうな失態だった。
「賊が事を起こすのを待っただけです。何か間違っていたのでしょうか?」
「どういう意味ですか?」
「あなた達が、かつて私の領内で行ったことを我々もやっただけですよ」
その瞬間、シャニスは一歩後ずさった。
キールとゴルドー、グレイスもユースチスが何を言いたいのか気付いた。かつて、ユースチスの領内で、賊が暴れまわったことがあった。今から三か月前のことだった。




