地方と中央③
「相変わらず、楽しんでいるな」
「どこがだ。むしろ気苦労が多くなるばかりだ」
「まだ言うか。いい加減自分の事なのだから、しっかりしろよ。そんな事だと、これから先もずっと尻に敷かれるだけだぞ」
「分かっている。だが、やはり慣れてない事だから、難しいんだ」
「女難の相があるだろ、お前」
「放っておいてくれ」
心中ではラトクリフとベサリウスの二人が爆笑していた。
『兄弟、ロバートの言う通りだぜ。俺もお前に女難の相があるように見えるぜ。これから行く先々で、何か一騒動起こすかもしれないぜ』
『僕もラトクリフと同意見だ』
「やめろ、お前たち。本当になったらどうするんだ」
ロバートに聞こえない程度の声で、ロウマは二人に返答した。ラトクリフやベサリウスの言う通りになったら、考えるだけでも恐ろしい。この場にいるナナー達からどんな目に遭わされるか分かったものではない。なるべくおとなしくしようと心に誓ったロウマだった。
「ロバート、話を変えてもいいか?」
「なんだ?自分に不利な状況だから、話を切り替えるのか?」
「うるさいな。聞きたい事があるんだ。行軍に異常はないな?」
「異常らしい異常はありませんよ、ロウマ=アルバート右宰相」
「その呼び方はやめろ。私はもう右宰相ではない」
連れている民兵やその家族などは合わせると、五百人はいる。結構な大移動である。戦でもないのに、こんなに人を連れて移動しているのは歴史上あまり無い。
現在先鋒は、ハルバートン家の次女であるディナが率いており、その後ろを三女のイメ―ルと四女のレイラ。中軍はロウマとロバート、シャリー。最後尾は長女のライナと六女のルミネ、ハルバートン家の使用人ピルトンだった。
民兵は無駄な動きをしていなかった。ロウマが鍛えたのもあったが、それ以前にロバート達が調練をほどこしていた。ほとんど正規軍と変わりない動きである。
「レストリウス王国には民兵達が住める場所はあるのか、ロウマ?」
「いきなり首都は無理だろう。最初は野外の練兵場で暮らしてもらうことになるかもしれない。それだけは覚悟してもらおう」
「それぐらいならお安い御用だ。みんな流れ者ばかりだから、そういうことは慣れている」
「だが、中には子供や女も混じっている」
「分かってないな。あいつらの根性を甘く見るのはよせ。これでもレストリウス王国よりも極寒の地で暮らしているんだ。野外活動なんて剣を研ぐより簡単なことだ」
思わず苦笑してしまったロウマだった。野外活動とはロバートらしかった。




