表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/158

第一章 それぞれの出発①

 今でも覚えていた。あれは、初夏の夜だった。父はいつものように、自分を呼び付けて掃除に対しての難癖をつけてきた。しっかりとしたはずなのに、まだほこりが残っていると叫んで父はぶった。


 最初にほおを張られたことを、エレンは記憶していた。頬を張るのは、いつものことだった。その後は、むちで徹底的に背中を打たれた。どうせすぐに終わる事だと分かっていた。無駄な抵抗をせずに、ただぶたれるだけにしておこう。そうすれば父はいつか飽きて、また酒を飲んで寝るはずだ。


 だが、エレンの考えは甘かった。その日の父は、いつもと違っていた。


 父は彼女の態度が気にくわなかったのだ。まるで分かり切ったような態度が、しゃくに障ったのである。


 なめやがって、とエレンに向かって吐き捨てた。むちが止むのと同時に、父はどこかへと去った。


 エレンは、ほっとした。今日はもう寝よう。寝ている間だけ、安らぐことができるし、夢で死んだ母に会うこともできる。夢の中の母は、何か言うわけではないが、とにかく現れるだけでも嬉しかった。今日は来てくれるかなと思案していた。


 大きな足音がした。


 父が戻って来たようである。


 すぐに逃げようとしたが、背中をつかまれた。尋常でない力だった。おそるおそる、後ろを振り向いた。


 父は手に包丁を持っていた。包丁は、斬れ味が悪くなっていたので、昼間にエレンが研いだものだった。


 解放してくれるよう叫んだが無駄だった。


 着ている服が一気に破られた。


 エレンはわめいたが、それが父の神経をさかなでしたことに気付かなかった。


 背中に痛みがはしった。


 斬られたことに、エレンは気付いた。


 そのまま外に投げ出された。痛みがどんどん、押し寄せてくる。エレンの目から突如、涙があふれ出て来た。


 どうして自分がこんな目にあわなければいけないのだろうか。自分が何をしたのだろうか。母が死ぬまで優しかった父は、どこに行ったのだろうか。


 誰でもいいから、この苦しみを聞いてほしかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ