父と娘⑤
おかげで軍議は中断。ゴルドーはその時、倒れたグレイスをすぐに担いで医務室まで運んだ。
「当たり前の事か。どうしてお前は私を担いだ事を当たり前と言うのだ?」
「決まっているだろう。おっさんと俺は仲間だからだ。ロウマと一緒に戦う者は全員仲間でもあり家族でもある。まあ、おっさんは俺と仲がよくないから仲間止まりかな」
「仲間でもあり家族か……」
死んだ妻以外、家族はいないと思っていた。両親はいたが、早く亡くなったので記憶に無い。賞金稼ぎをしていた時の男も仲間なんて意識を持っていなかった。ただ一緒にいるだけという感じだった。
「ゴルドー、私はお前のことを勘違いしていたみたいだ。今までお前のことを、くずで馬鹿で単細胞な男としか思ってなかった」
「俺も一緒だよ。俺は今までおっさんを冷酷で口が悪くてロウマにだけ忠実な男としか思ってなかったよ」
『まあ、実際その通りなんだけどな』
二人は同時に同じセリフを言ってしまった。互いに笑ってしまった。
「これまでの数々の暴言は謝罪する。許してほしい」
グレイスは、ゴルドーに向けて頭を下げた。
「俺もおっさんが軍に入って来た時、すぐにロウマの副官に任命されたのが気にくわなかったんだ。だから反発して、あんたに喧嘩をふっかけた。だけど、ロウマの人選は間違っていなかった。あんたは立派なロウマの副官だよ。許してくれ」
ゴルドーも頭を下げた。
グレイスとゴルドーの間で壁となっていたものが、一気に無くなった。
「これからも俺に何か間違いがあったら、遠慮なく言ってくれ」
「それは私も同じだ。これからはともに頑張っていこう」
「そうだな。おっさん、聞きたいことがあるけどいいか?」
「娘のことか?」
「分かっていたのか?」
「察しがつく。この間の事もあるからな。先に言っておくが、私は反乱軍と内通なんてしていない」
「そんなこと微塵も思っていないよ。本当に内通していたら、娘の墓に手なんて合わせるはずがないだろう」
給仕が酒と料理を持って来たので、話は一時中断となってしまった。ゴルドーは酒瓶を持つとグレイスのグラスに注いでやった。