反乱の終わり⑩
ハシュクはその光景に気付いたのか、楽しそうに眺めていた。
「いざ強盗の首を斬ろうとした時、とんだアクシデントに見舞われたんだ」
「へえ……」
「強盗には娘がいてね、その子がちょうど帰って来たんだ。気付いた僕と仲間の男は間一髪で窓を破って逃げたよ。後で知ったけど、殺した強盗も強盗殺人の被害者として扱われているらしい。皮肉な結末だね」
ハシュクは、わざとらしく深い溜息をついていた。
「それがやめた理由となんの関係があるのですか?早く言ってくださいよ」
「焦るな。今言うよ。強盗の娘は、自分の家族の遺体を見つけたショックで声を失ってしまったんだ。この一報には僕も驚いたけど、もっと驚いていたのは組んでいた男だったよ。随分と取り乱した挙句の果てに自首しようと言い出したんだ。馬鹿げているだろう。こっちは善意の人殺しをしたのに、なんで自首なんてしないといけないんだ。変だと思わないか?言い争いの果てに僕は、そいつとのコンビを解消したよ」
善意。
この男に善意という気持があるわけがない。あるのはただ自分の精神的快楽におぼれるのみである。
かといって、組んでいた男が正しいのかというと、それも違う。その男だって今までたくさんの人間を殺めてきた。殺された連中にも家族や友達がいたはずなのに、今更一人の女が失語症になった事で取り乱して自首しようという考えに至るのも勝手すぎる。
というよりも、偽善という言葉がぴったり当てはまる。
「けんかのせいもあったのか、賞金稼ぎという商売にも飽きて、僕は医者を生業にする事にしたんだ。そして、セイウン達と出会って、お前とも出会った」
話はそこで終わった。
ハシュクは、地面にごろりと横たわった。すでに夜になっており、満点の星空だった。
「綺麗じゃないか、ロビンズ。明日から、この国で新しい生活が始まるぞ」
「俺はもうあなたには……」
「お前、一人で生きていく自信があるのか?」
「…………」
「無いなら、もう寝ろ。安心しろ。お前は僕が立派に育ててやる。身も心もな」
ロビンズもハシュクと同じようにして横たわった。間もなく微かな寝息が耳に入って来た。どうやら寝てしまったようである。よっぽど疲れていたのだろう。