反乱の終わり⑨
「医者は副業だよ。僕の本業は悪党を捕まえて、役所に差し出すボランティア稼業だよ。時と場合によっては、殺人も法的に許される。こんな魅力的な職業はどこを探しても無い。どうだ素晴らしいだろう?」
だんだんと目まいを覚えてきた。なんでこんな男を自分は尊敬の眼差しで見ていたのだろうか。どこに教えを乞う価値があったのだろうか。馬鹿らしくなってきた。自分が尊敬していたハシュクという人物はもう遠い。目の前にいるのは、ただ人殺しを楽しむ異常者である。
唇の端から唾液が垂れてきているのに気付いたのが、拭うのも面倒になってきた。自分は気が狂って、そのうち、くたばるはずだ。
「まだ、くたばる時じゃないぞ、ロビンズ」
心を見透かしているのか、ハシュクが語りかけてきた。本当に嫌になってくる。
「僕が賞金稼ぎをやめた理由を教えよう」
「結構です」
「そう言うな。話してあげよう。四年前にこの国で強盗殺人が多発していたのは覚えているか?」
「ええ、覚えていますよ」
「よかった。なら話は早く進む。当時、僕は一人の男と組んで、その強盗を追っていたんだ。必死の捜索の結果、強盗の家まで見つけることに成功した」
「それで、強盗は殺したのですか?」
「もちろん。奴を初め、一緒にいた妻も息子も手にかけたよ。どうせ死ぬなら家族もろともがいいだろう」
「最低ですね」
もう見つめるのも嫌だった。目が合うだけで、この男と一緒の世界で生きているという実感に呑まれてしまいかねない。そういうのだけは、耐えられないものである。
さっきと同じように爪で地面を引っ掻いていたが、今度は爪がむけるほどの力は入らなかった。何度も念じたが無駄だった。