父と娘④
「えっ、誰なんだ?」
「子供のいたずらだったの」
『子供?』
一同は間の抜けた声を上げた。セイウンは座って、ぶすくれている。
「そうなのよ。城にいる数人の子供が、取っていたのよ。私がセイウンをぶったちょうどその時に、親子が何組か謝罪に来て、それで一件落着になったの」
「なんだそうだったのか」
セングンを初めとする一同は胸をなでおろしていた。
セイウンだけは、よくないという表情をしていた。
「あの女達、俺の時は烈火の如く怒っていたくせに、犯人がガキどもだと分かった瞬間に態度を変えて、『もうこんな事をしちゃ駄目だよ』って言うのだぞ。しかも俺には謝罪無し。ひどいと思わないか?」
「みんな日常のお前を知っているからな」
セングンが、ぽつりと呟いた。セイウンは普段、エレンに対して度重なる禁句を発しているから、それが城中の女に対して女の敵のように映って見えるのだろう。そうなると、弁護のしようがなかった。
セイウンは、がっくりとうなだれた。
一同からすれば、今回の一件は彼にとっていい薬になるだろうと思った。
しばらくすると、軍議は始まった。
***
昼間から酒場にいる者はあまりいない。いたとしても、久し振りに飲む酒を楽しみにしてやって来た連中ばかりである。
一番奥の席に座ったグレイスとゴルドー=ランポスは、適当に酒や料理を注文した。
「おっさんが俺を酒に誘うなんて、どういう風の吹き回しだ?」
「この間の礼だ」
「あんなの礼なんてされるものじゃないよ。当然のことをしたまでだよ」
先日の軍議で、グレイスは昏倒した。間諜隊の隊長であるアラリア=ソシルからの報告で、反乱軍のエレンが、グレイスの死んだはずの娘であることを聞かされてショックのあまり気絶した。