反乱の終わり②
「言え」
「グレイス、そう急かすな。つらいかもしれないが、話してくれないか、ロバート」
目をあちこちに泳がせて逡巡していたロバートだったが、やがて決心がついたのか、深く息を吐いた。
「グレイスさん、これに見覚えはあるか?」
懐をまさぐったロバートは、ある物をグレイスの眼前に差し出した。
メスだった。ロバートが担ぎ込まれた時までは、生々しい赤い血が付着していたが、その血もすでに乾いており、黒ずんでいた。
借りるぞと一言述べたグレイスは、メスを受け取って丹念に調べていた。最初は何事もなく調べていたグレイスだったが、どんどん顔色が悪くなっていった。
まるで質の悪い魚のようである。
「ロバート、このメスをどこで?」
「ピルトンを殺した男が俺に寄越したんだ。あんたに渡せと言っていた」
「そいつの名は?」
「ハシュク」
グレイスの手からメスが滑り落ちた。落としてもグレイスは拾う気配が無かった。しきりに口から馬鹿な、あり得ないなど意味不明のことばかり繰り返していた。
「ハシュクといえば、確かセイウン達と一緒にいた医者だったな」
「ロウマは、あいつを知っているのか?」
ロバートが尋ねた。
「ああ。前にアリスと出かけた時に会っている。セイウンとはその時に知り合ったんだ。まだ反乱が起きる前の話だ」
突如、グレイスが反応した。どうしたのだろうか。ロウマに顔を向けたグレイスの形相は、尋常ではなかった。目は血走り、頬は赤く染まり、額の血管が浮き出ていた。
メスを調べていた時とは対照的だった。
「元帥、お先に失礼します」
グレイスは突然出て行った。
残ったロウマとシャニス、ロバートは、すっかり骨抜きになってしまった。仕方がないので、落ちたままのメスを拾う事にした。ロウマが拾ってみると、違和感を覚えた。