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総攻撃⑩

「さようならだ、みんな」


 捨て台詞を吐いたハシュクは、にやりと笑った。


 ハシュクはロビンズを担いだ状態で扉を蹴破った。今はこの城を脱出するのみである。しかしこの国には、まだ用がある。それが終わるまでは、立ち去るわけにはいかなかった。足音がしたので、真正面に目を向けると誰かがやって来た。どうやら騎士のようであるが、構わなかった。今はただ進むのみであり、邪魔するならば、殺してやるだけだ。


 騎士は剣を突き付けて、止まるように勧告しているがハシュクからしてみれば無駄である。ハシュクからしてみれば、剣は脅しのためのものではない。殺しのための道具にすぎなかった。


 ハシュクは走り込んだ。敵は素人である。自分を目で追う事はできない。担いでいるロビンズが重たいのでスピードが鈍ってしまうが、止むを得まい。メスが微かに鈍い光を放った。


 一撃だった。先頭の騎士の喉に突き付けた。即死だ、とハシュクは断定した。


「ピルトン!」


 横にいる若い男が叫ぶのと同時に、ハシュクはすでにピルトンという騎士の首からメスを引き抜いていた。瞬時に赤黒い液体が噴き出て、同時にメスを一振りした。


 若い男が顔を押さえて、うずくまった。


 ハシュクは狙いを外してしまった。もう少し踏み込んでいれば、首を斬るはずが、間違って頬を斬りつけてしまった。自分としたことがとんだ失敗である、とハシュクは心中で嘆いた。


 ハシュクは失敗した以上、もう若い男に興味は無い。先を急ぐことにした。


「待て……」


 男が頬を押さえながら、呼びかけた。


「何だ?」


「まだ死んでないぞ……」


「お前なんかでは、僕は倒せないから諦めろ。いやあ、悲しいね。弱いって」


「俺は弱くなんか……」


「弱いよ。そうやって強がる時点で」


 ずんと来る言葉だったのだろう。若い男はそれ以上、動かなかった。


 ちゃりん。


 ハシュクは男の足下にメスを落とした。


「なんのつもりだ?自殺でも促しているのか?」


「ロウマの副官にグレイスという奴がいるだろう。そのメスを奴に渡せ」


 言っている意味が理解できなかったらしく、口を動かそうとしたが男の唇に素早くハシュクの指が置かれた。それについての質問は許さないという意味だった。


「それじゃあ、さようなら」


「待て……」


「まだ何か用があるのか?」


「名前ぐらい教えてから去れよ」


「普通は自分から名乗るのが常識なんだけどね。まあ、尋ねるのも面倒だし今回は特別に僕から名乗るよ。ハシュク」


「俺はロバート……ロバート=ハルバートンだ」


「名乗っても覚える気はないよ。それじゃあ、今度こそ本当にさようなら」


 素早い動きだった。人一人を担いでいるとは思えぬ動きで、ハシュクは早々に立ち去っていった。

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