総攻撃⑧
「私はどうなるんだ?」
サイスは側の化け物に語りかけた。
化け物はゆっくりと動いた。体躯に変化が生じていた。体中の縞模様や体毛が次々と失せていき、牙や爪も引っ込んでいった。体の大きさも縮んで人並みになっていく。
姿が明らかになった。ゴルドー=ランポスだった。爪が無くなったので、懐から、代わりの鉄の爪を取り出した。
「なるほど。特殊能力者というものは、なかなか便利だな」
それが最期に言ったセリフだった。
情景が真っ赤に染まった。地面に倒れたサイスの眼前に映ったのは、すでに、こと切れたガリウスだった。
***
バルザック達は地下の脱出口に到着した。すでに城門は突破されたので、落城は間違いないはずである。ならば取るべき方法はただ一つ。自分達も脱出するだけである。
「全員そろったな」
バルザックは点呼をとった。場にいるのはバルザックを初め、デュマとガストーの三人だった。ハシュクはいなかった。彼はまだこの国に用があるらしく、それを終えたら合流するということだった。
「ハシュクの奴め。何を考えているんだ。この一大事に行動を乱すなんて」
「そう言うな、デュマ。あいつもあいつなりに、考えがあるんだ。好きにやらせてやろう」
「だといいのだけど」
半信半疑だったが、バルザックが言うのでここは信じてやることにした。しかし、あのハシュクという男は何者だろうか。セングンとレジストを殺した時のメスの使い方。
あれは医者の技術ではない。まるで人殺しでも専門に扱う奴の技術である。
「ハシュクは以前何をやっていたのか知っているか、バルザック?」
「まったく知らん。あいつがあんな技術を隠していたとは思いもよらなかったよ」
「私もですよ、バルザック殿。あの男は常人ではありません。セングン殿を殺す時の目が普通ではありませんでした。まるで殺しそのものを楽しんでいるようでした」
発汗症のガストーは、次々と出て来る汗を拭いながら自身の感想を述べていた。沈黙が場にはしった。それ以上は何も出なかった。一段と剣戟の音が響いた。三人は先を急ぐことにした。