総攻撃④
だが、実戦は今回が初めてである。
「初めてにしては落ち着いているな、イメール」
「全然。さっきから鼓動が鳴りやまないし、馬から落ちそうだよ」
「頼むから、そういうのは小声で言ってくれ。兵士達に対して示しがつかねえよ」
「でも事実だよ。ゴルドーこそ、初めての戦は怖くなかったの?」
怖くなかったというのは嘘になる。初めての戦はクルアン王国が領内に侵入してきた時だった。自分が騎乗しているという理由だけで、無数の敵兵が襲い掛かって来た。本来なら戦わなければならないのに、自分は怖くて逃げてしまった。戦うより生きる方を選んだのである。
気が付くと、単騎になっていた。ゴルドーは生き抜く事ができたのだと、ほっと一息ついた。その時である。馬上から転落したのは。鉄拳を入れられたのである。誰が入れたのか分かっていた。
ロウマだった。あの男は戦場から逃げた自分をずっと追っていたのだ。
転落した自分をロウマは見下ろしていた。目と目が合った。すぐに、理解した。この男には絶対に逆らわない、と。
残念ながら、どうやって陣に戻ったのかは記憶していない。
その後は逃げるのはやめた。敵兵から殺されるより、ロウマからの鉄拳制裁の方が、よっぽど怖かったからである。
「どうしたの?」
イメールが尋ねた。
「昔を思い出していたんだ」
「いい思い出?」
「ちっとも」
「それじゃあ、今日の戦に勝利して、いつか思い出した時、ハッピーだと感じる思いでにしようよ」
「なんだそりゃ?」
思わず吹き出してしまった。以前の副官は、こんな冗談を言うような奴ではなかった。随分とまた変な女が副官になったものである。さっきまで悩んでいたのが、馬鹿みたいである。
「もう少し無駄話でもして、待ってみるか?」
「うん」
「じゃあ、お前から話せ」
「何で私から?」
「上官の命令だから、当たり前だろ」
「うわあ、こんな時に権力を行使してるよ。最低だ」
側で聞いていた騎士達が、くすくすと笑いをこらえていた。戦だというのを、つい忘れているようだ。いや、忘れていいのだ。ただ厳しいのが戦だけではない。