総攻撃②
「いよいよか。この一戦が勝負だと考えた方がいいかもしれないな」
「はい」
ロウマが言うと、グレイスは頷いた。
***
やっぱり一筋縄ではいかなかった。さっきからだいぶ攻撃を仕掛けているが、城壁に梯子一つかけられなかった。さすが父のジュリアスが陥落に時間を費やしただけはあった。
遠くから戦局を見守っていたロウマは唸りながら、紅茶をすすった。紅茶を飲むと頻繁に尿意に襲われるが、何か関係があるのだろうか。
やめよう。今は戦の最中だから、そっちに集中しなければいけなかった。
「シャニスを出しましょうか?」
紅茶を継ぎ足しながら、グレイスが提案した。
「いや、早すぎる。もう少し様子を見よう」
「ゴルドーだけでは、耐えれないはずです」
「お前は少し変わったな。前はゴルドーなんて、どうだっていいと認識していたのに」
「共に戦い抜く仲間ですからね。見捨てれませんよ」
徐々にこの国は変わっている。人も組織も。ただの反乱軍なんかでは、びくともしないくらいの強い国へとなるはずである。
しかし、だからといって、今ここでシャニスを投入するわけにはいかなかった。
「俺が行こう」
声をかけてきた者がいた。
ロバートだった。
「俺なら文句無いはずだ、ロウマ」
「どうしてだ?」
「俺達の軍は流れ者同然だからな。やられらところで、お前達正規軍にとっては、痛くもかゆくもないはずだろう。だから行かせてくれ」
いい考えでもあるが、自分はそこまでして勝利を得たいとは思っていない。犠牲が多い勝利ほど、愚かなものはない。ここは是が非でも無視するしかなかった。
紅茶のカップに手を伸ばそうとしていたロウマだったが、その手を勢いよくつかんだ手があった。
「ピルトン……」
「今は逃げる時ではありません」
「…………」
「今は挑む時です」
時が止まったようだった。ロウマの耳に聞こえてくるのは、風の音のみである。どうやら今こそ決める時のようだ。己の目の前にいる男達を見つめた。