第十五章 総攻撃①
待っても、待っても降伏する者は出なかった。時間だけが無為に過ぎていくだけである。ロウマはゴルドーとキールに攻撃命令を下した。三日たっても、陥落が不可能と判断したら帰還しろ、とラジム二世から命令が下されていた。
すでに一日が過ぎており、残りは二日。時間はそんなに無かった。
「なぜ、あのような書簡を送られたのですか?」
横に控えているグレイスがロウマに尋ねた。質問するのは野暮であったが、どうしても尋ねずにはおれなかったのである。
「グレイス、戦というものは、あくまで最終手段だ」
「えっ?」
「何事もまずは交渉からだ。交渉を行って、それが決裂してやむを得ないと判断したら戦に持ち込むのだ。それがこの国の学院の教科書に書いてある戦の基本だ」
「そうなのですか?」
残念ながらグレイスはレストリウス王国出身ではないので、学院の教科書の内容まで知らなかった。改めて考えてみると、確かに交渉とは大切かもしれなかった。ただ戦をやるのは簡単かもしれないが、口で相手を説き伏せるのは最も難しいことである。
「交渉もある意味、戦かもしれませんね」
「まあな。けれども、どの騎士もそんな内容は成長するにつれて忘れてしまうものだ。私もその一人だ」
その忘れていたことを思い出させてくれたのは、なんとあの男である。
ブランカだった。出陣前に屋敷に姿を現し、散々自分を挑発した挙句の果てに出て行ったが、出て行く際に、自分に古ぼけた教科書を渡していったのである。
それでお勉強をし直せと捨てゼリフを吐いていったが、もしかしたら、自分に戦の基本を思い出させようとしたのではないだろうか。
教科書を開いてみると、戦の基本のページだけに、赤線が引かれていた。あの秀才が赤線を引くような真似をするはずがなかった。思い出したロウマは、微苦笑した。
「元帥、兵士達の配置が終わりました」
報告に現れたシャニスの声で、ロウマは我に返った。