猛毒ウェルズ=アルバート⑤
「パリスはかつて、ウェルズの時の俺をを殺した男イシスで、やはり『転生』の能力者だ」
デュマには、もはや驚く力も残っていなかった。ただその場に立っていられるか気力を振り絞るしかなかった。
ハシュクは軽く口笛を吹いた。
「特殊能力者で同じ能力を持つ人物が二人以上出る事は、基本は無いが、例外もあるらしい。パリスはそれに該当していたようだ」
「よく自分を殺した男だと分かったな?その絵と今のパリスでは顔が違うじゃないか」
「感覚だよ、デュマ。小説のようで現実離れしているかもしれないが、会った時から感じたものがあったのだよ」
「特殊能力者同士は引き合うというものか?」
「そんなものだ。とにかく奴のおかげで下手に行動ができなくなった。いつも奴の監視があったからな。おかげで数年間は無駄に過ごした。だが、ある日俺にとって素晴らしい人材が目の前に現れた」
「まさか……セイウンか?」
バルザックは、こくりと頷いた。頷くのと同時にろうそくの灯りはゆらゆらと揺れた。夜もだいぶ更けてきたようである。立ち上がったバルザックは、机から新しいろうそくを取り出すと、すでに灯されているろうそくから火をもらった。
「強くて、正義感があり、今のクルアン王国の政治情勢を嘆いている。これを利用しない手はなかった。だから俺は接触して仲良くした」
「あいつと初めて会った時から、お前の計画は始まっていたのか?」
デュマは、生唾を飲んだ。実に恐ろしい男だと思った。これが前世で猛毒と異名をとった男の実力なのか。あの日自分も一緒にいたが、自分も計画のコマとして使われていたことになる。
しかし、不思議と屈辱感は出てこなかった。
「ちなみに近衛兵とセイウンの騒動も俺が仕組んだ。連中に金をばらまいて騒動を起こすように仕組んでおいたんだ。もちろん後の褒美もたっぷりと出しておいた」
「ちょっと待ってくれ」
ハシュクが間に入った。どうした事か彼は、これだけの事を聞いているにも関わらず、目を爛々(らんらん)と輝かせていた。
「バルザック、なかなかの演説を披露してくれてありがとう。僕からも尋ねるけど、いいかな?」
「ああ」
「君とデュマは一度、レストリウス王国に出兵して敗北しているけど、あれもまさか芝居だったのか?」
「残念だが、あれは急な出兵だったし、本当に裏をかかれたんだ。期待通りの答えでなくてすまない」
「それは残念。もう一つ尋ねるけど、セングンはいつから殺すつもりだった?」
「最初に会った時からだよ。邪魔になると予想はしていた。用心深い男かと思ったが、簡単にだまされるなんて愚かだな」
床に転がっているセングンの遺体に目を落としたバルザックは、鼻で笑うと遺体を軽く蹴った。