猛毒ウェルズ=アルバート④
「周囲が真っ暗だった。本で読んだりしていたが、やはり死ぬ時とは灯が消えるのと同じものなのだと分かったよ」
「そんなものか?」
死んだ事がないデュマやガストーには、いまいちぴんと来なかった。ハシュクは興味津々に話に聞き入っていた。
「だけどな、俺は死ぬのと引き換えに特殊能力に目覚めた」
「なんだって?まさか生まれ変わりが能力だというのか?」
「今日はなかなか冴えているじゃないか、デュマ。正解だ。俺の能力は死ぬことで発動する『転生』だ。普段は意味ないが、死ぬ事によって、いくらでも新しい肉体に生まれ変わる。素晴らしいだろう?」
笑いかけたバルザックの表情に、デュマ達は気圧された。考えてみれば便利な能力であるのは間違いない。なぜなら彼の能力は、前世の記憶がしっかりと叩き込まれている。つまり、以前やり損ねた事を今度はできるかもしれないのだ。もちろん生まれた地位にもよるが、前世の知識があるので、なんとか克服できるはずである。
「まだ尋ねてもいいか?」
「どんどん質問しろ、デュマ」
「そんな不思議な能力を持っていて、前世の知識があるのなら、どうしてクルアン王国で改革を行ってくれなかったんだ?」
「やろうとしたさ。だけど、絶対に行動できない理由があった」
「それは?」
「パリスがいたからだ」
「あいつが?」
クルアン王国ではラスティの子飼いの将軍であり、ついこの間、反乱軍に合流したかと思えば、セイウンを連れて旅に出てしまった。つかみどころの無い男である。確かに騎兵のさばき方はうまかったし、セングンからも信頼を得ていたから尋常な人物ではないのは間違いない。だが、クルアン王国では格別凄い働きをしていた形跡は無かった。
怪訝な表情のデュマにバルザックは無理もないという感じで頷いた。
「お前が疑問に思うのも当たり前だ。これは俺とあいつの因縁の問題だからな」
はっとして、デュマは顔を上げた。表情から少し感づいたようである。一緒に聞いていたガストーも同じだった。彼の額から流れた汗はしずくとなって、床にぽたりと垂れた。ハシュクは、ますます興味が湧いてきたらしく、腕を組んで真剣に聞き入っていた。