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三つの約束⑤

 どうやら部屋の住人は留守のようである。鍵をかけると周囲に目を配った。見た感じこれといったものは無いようだ。机にタンス、クローゼットを調べてみたが、やはり何も無かった。残りは本棚くらいである。


 本棚に目を移してみても、埋め尽くしているのは本ばかりだった。当たり前である。本棚なのだから。それでも一冊、一冊に丁寧に目を通してみることにした。面倒な作業だったが、やってみた。五冊目の本を手にした時だった。本棚の奥に何かがあるのに気付いた。何だろうと疑問に思ったセングンは、それを手にした。


 スケッチブックだった。随分と薄汚れているが、まぎれもなくスケッチブックである。どうしてこんなものが、あいつの本棚に紛れているのだろうか。絵を描く趣味でも持っているのだろうか。いや、そんな姿は見た事なかった。


 クリスト=フォスターが反乱をしていたころの遺物だろうか。その考えもすぐに消えた。自分やセイウンが、この城に来た当初、城中に残った無駄な遺物はほとんど処分した。このスケッチブックは外見上、必要なものとは思えない。


 何が描いてあるのだろうか。とりあえず表紙をパラリとめくってみた。


「何だこれは?」


 最初に出た言葉はそれだった。


 随分と下手な絵である。まるで子供が描いたような絵だ。中心に描かれているのは人だろうか。それが山頂と思われる場所で剣を掲げている。さらにその下にも人と思われるのが幾人もいるが、これは全て倒れているし、なぜか赤い塗料でぬりつぶされているのもある。


 まるで死体のようだ。


 随分と悪趣味な絵を描く奴も世の中にはいるものだ。親の顔が見てみたいものだとセングンは溜息をついた。


 次のページをめくると、またもや意表を突かれた。


 明らかに人間ではない。翼があるところから、おそらく鳥だろう。しかし、鳥というより化け物に近かった。


 足は人間、顔も人間、こんな鳥が世の中にいるはずがないだろう。これを描いた奴は、どんな目をしていたのだろうか。神経を疑ってしまう。


 苦笑したセングンはスケッチブックをさらにめくってみたが、何ページかは破れて何か判別できなかった。別に残念とは思わなかった。下手くそな絵と付き合わなくてすんだのだから。


 無事なページを見つけたのでめくってみた。


 目を見張った。


 突然、絵がうまくなっていた。今度は人物画である。


 男だった。ぱっちりと開いた目に、細い眉、きちんとした歯並び。笑みを浮かべた表情は素敵であり、同性のセングンでさえも一瞬にして好感が持てた。おそらく美男子とは、こんな人物を言うのだろう。


 さらに次の頁をめくった。また人物画で男だった。前のページとは打って変わって美男子とは、ほど遠い人物だった。決して悪い顔ではないのだが、眼光が鋭く、眉も太いため、見る者に威圧感を与えていた。年齢は三十歳ぐらいだろうか。


 絵は、そこで終わっていた。スケッチブックを閉じたセングンは、一息つくと近くの椅子に腰かけた。結局、何も無かった。あったのはわけの分からないスケッチブック一冊のみ。


 あいつに絵を描く趣味があるとは思えないので、このスケッチブックも城の中にあった遺物を何かの戯れに取ってきたのだと推測するしかなかった。


 無駄な時間を過ごしてしまったので、自室に戻って寝よう。セングンが立ち上がったのと同時であった。


 がちゃり。


 しっかりとかけていたはずの鍵が解除された。


 ぎいー。


 異様な音が室内に響き渡った。セングンの耳には開けられたドアの音が印象的にに残っていた。


「いけないな。人の大事なものを勝手に見るなんて」


 入って来た人物は、今まで浮かべた事がない笑みを浮かべていた。


 その笑みが目に入った瞬間セングンは、パリスが立ち去る間際に残した三つの約束の三つ目の意味を理解させられた。


 三つ目は、バルザック=ドミムジーに注意しろ。

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