三つの約束③
ガストーとガリウスは予想していた通り、今戦っても不利だと言って、レストリウス王国と停戦協定を結ぶことを提案した。現実的と言えば現実的である。
「お前はどうなんだ、セングン?」
デュマが尋ねた。彼の額からは多量の汗がにじみ出ており、見た目は発汗症のガストーと変わらなかった。それだけ彼も緊張しているのである。
瞳を閉じたセングンは、しばしの間考え続けた。思えばここで反乱を始めてから四か月。短い期間だったが、長くも感じた。戦はまだ二回しか行っていないが、何回も戦っているように感じてならない。
自分は常に机上で書類とにらめっこしながら、様々なことを構想した。構想するのも戦の一つだった。レストリウス王国と戦いながら、悪政を行うクルアン王国を打倒する。そして一つの国を創り上げる。その国の頂点にいるのは、あの男。
セイウン=アドウール。
だったはずである。
もう彼はこの城にいない。彼の傍らにいるエレンもいない。せっかく現れたパリスも去ってしまった。ジュナイドも戦の傷なんかで会議に出席しない。
勝てない戦をいつまでも継続したがるデュマ達。停戦なんか結んだところで、今度は倍の兵力で来襲するかもしれないのに、そんなことも頭に思い浮かばないガストーとガリウス。
もう限界である。
パリスと結んだの二つ目の約束は、必ずこの城を守る事だった。
すまない。
もうできない。
「僕は降伏する」
セングンの発した一言に、みんな唖然とした。一瞬セングンが何を言ったのか分からなかったらしく、時が止まってしまったかのように動かなかった。
「嘘だよな?」
デュマだった。
「嘘じゃない。本気だ」
「何でだよ。説明しろ」
「もうお前達と付き合う気はない。僕は明日、降伏する。降伏したい奴はみんな連れて行く。デュマ、どうだ?」
「ふざけるな。何で俺が降伏しないといけないんだよ?」
デュマの口調はいつものように激しくなかった。落ち着きを払っており、目はただセングンをだけを見つめていた。