現れし一軍⑨
ロウマは頷くと、医者を退けてライナを呼んだ。
やがてライナが姿を現した。
「すまなかったな、ライナ。私が勝手に戦場に出てしまって」
まず先に謝らなければいけないのは、それだった。自分はレストリウス王国の全軍統率の権利を持つとはいえ、この場の指揮権はオルバス騎士団が持っている。とっさの判断とはいえ、あの時負けることで動揺していたライナから急いで指揮権を奪って軍を指揮したのは、よくないことだった。
「こちらこそ、すみません。私としたことが、団長の身でありながら、あのような醜態をさらしてしまいました」
ロウマはじっとライナを見つめた。
横に控えているグレイスも、黙っている。
「頭を下げるだけか?」
「えっ?」
「頭を下げるだけしかないのか、と言ったんだ。今回の戦で騎士団の弱点が分かったはずだろう。そんな事をやっている暇があったら、調練をして強くすることだな。それから、今回は罰しない。いちいち罰していたら、貴重な人材を失ってしまう。以上だ」
「ですけど……」
「まだ何かあるのか?」
ライナはそれ以上何も言えなかった。気圧されてしまったのである。ロウマから発されている覇気というものだろうか。ロウマとライナの関係は、前のように親しく茶を飲むようなものでは無くなっていた。すでに騎士としての上下関係ができていたのである。
「後は私に任せろ」
ロウマは椅子から立ち上がった。
グレイスも後に続いた。
「どういう事ですか?」
ライナが尋ねた。
「反乱軍は私が鎮圧する。すでに主力部隊が、首都ダラストから進発している。後はその軍と合流して反乱軍の城を包囲するだけだ」
「私もご一緒してもよろしいでしょうか?」
「その兵力で戦えるのか?」
何も返す言葉が無かった。口には出していないが、邪魔だと言いたいのだろうとライナは悟った。
ロウマは幕舎を出て行った。動きは、はっきり言って鈍かった。傷は、かなり重いのだろう。本来ならば、安静にしなければいけないはずである。
あの体で戦に赴くとは、なんて精神力だろうか。それに比べれば、自分はまだ楽な方かもしれない。ライナは心底、胸をなで下ろした。
「ご武運を」
ライナは頭を下げて見送った。