現れし一軍⑥
「セングンさん……どうしてこんな所にいるのですか?」
セングンは、また驚いた。ロビンズは目の前にセングンがいた事に気付いてなかったのである。
「すいません。俺は集中すると、何も聞こえないみたいです」
「言い訳するな。半人前にもなってない奴が、何を偉そうな事を言っているんだ。すまないな、セングン。僕から謝るから今のは許してくれないか」
「ああ……ところでさっきの六人が自殺したというのは?」
「治療後の痛みに耐えきれなくて自分から、命を絶つ者がいるのです。こればかりは、どうにもできません」
何も返せなかった。自分の知らない所で兵士達はまだ戦っている。自分が共有することができない感覚で苦しんでいるのだ。あまりにも無常だった。ふと、目を向けるとロビンズが袋を持っているのに気付いた。膨らんでいるところから、中身はだいぶ入っているようである。
「なんだそれは?」
「蛆です」
「蛆だと?」
「はい。蠅の幼虫の蛆です。兵士達の傷口に群がって、そこから傷口を食い荒らそうとするのです。みんなその痛みに苦しむから、早く取ってくれって騒ぐのです。だから俺は休む暇も無く、兵士達の傷の蛆取りに費やしていますよ」
聞いていて気分が悪くなってきた。さっきは兵士達に対して同情の念があったが今度は、その話によってたちどころに嫌悪感しか湧かなくなった。吐き気がしそうだった。ロビンズが微かに袋を開けようとしたが、急いで手で制した。その対応が気に障ったのか、ロビンズはむっとした表情になった。
「これを捨てたら、俺はまた戻ります。患者が待っていますから」
ロビンズが去った後には、セングンとハシュクは互いに顔を合わせた。
「あんな患者思いの奴に、君の仕事を押し付けるつもりか?」
「お前、あいつに何をした?」
「別に。医学の厳しさを教えただけだ」
ハシュクは笑っていた。なぜ笑うのだろうか。そもそも、この男は本当にハシュクなのだろうか。最初に会った時とは、まるで別人のように思えてならない。とりあえず言えることは、自分はこの塔に来るべきではない。
「邪魔をした。ロビンズには頑張ってくれと伝えておいてくれ」
「そうするよ」
やむを得ないが、調査は諦めることにした。