現れし一軍⑤
だが、以前セイウンに聞いた話によるとエレンは彼と同じ孤児院で育ったはずであり、孤児院の院長のゴートがエレンの父親は死んだと発言していたようだ。どういう事だろうか。謎は深まるばかりである。
「ハシュク、ロビンズを呼んでくれ」
「呼んでどうする?」
「クルアン王国に行ってもらう」
「今は重症者の手当で忙しい。他を当たれ」
「彼だけはクルアンにもレストリウスにも顔が割れていないから適役だ。だから、貸してほしい」
「そうか。ならば、付いて来い」
にやりと笑ったハシュクだった。
なぜ彼が笑ったのか、セングンには見当がつかなかった。ただ分かるのは、気持のよい笑みではなかった。バルザック達をその場に残したセングンは、ハシュクと一緒に重症者を収容している場所へと向かった。
そこは塔だった。セイウン達が住まいとしている城から、だいぶ離れており、唯一の道は立派な石を切って造った渡り廊下のみだった。
セイウンの父のクリストの時代から、重症者はそこへ収容すると決められていたらしい。セングンは渡っている時から、いい気分はしなかった。腹部に痛みがはしる。
なぜか引き返したいという思いに駆られてしまう。たぶんここから先は、人のいる場所ではないのだ。
「どうした?」
ハシュクがまた笑みを浮かべた。いつもの笑みではない。実に楽しげである。恐れている自分を嘲笑しているのだろうか。問いただそうとしたが、それより早く、前方の扉が開いた。
扉は錆びついているのか、異様な音が耳に入った。セングンは耳を塞いで、音が入らないように努めた。
出てきたのはロビンズだった。セングンは、ぎょっとした。ロビンズの顔は少し前に会った時に比べたら、だいぶやつれていた。頬もこけていたし、両目にもくまができていた。そもそも顔全体が白すぎる。これはずっと室内に閉じこもっていない限り出ない色である。
「あっ、先生。ちょうどよかった。報告します。先ほど兵士が十五人亡くなりました。そのうち自殺が六人です」
「六人も自殺しただと?」
あまりのことにセングンは大声を上げてしまった。