第十二章 現れし一軍①
奇襲は成功した。オルバス騎士団が、野外の調練に出たところを狙ったものである。剣や槍をぶつけ合う音が原野に響き渡っているが、それが兵士達の耳に入っているかどうか分からない。
全員生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。聞いている暇なんて、あるはずなかった。デュマは剣を振るって、前方にいる騎兵を斬った。休む間もなく、今度は左右から騎兵がかかって来る。一瞬の判断だった。一人の顔面にひじ打ちをくらわせて馬から落とし、もう一人を斬った。
瓦解したかと思った敵が一度、態勢を整えようと集まり始めていた。
デュマも馬首を転じた。彼に代わって出て来たのは、レジストだった。
同時にオルバス騎士団も隊形を元に戻していた。どうやら力量のある指揮官がいるようだ。オルバス騎士団がぶつかって来た。
デュマもレジストに旗で合図した。
お互いがぶつかった。人の叫びや馬の嘶きがひとしきり、周囲に響き渡った。
阿鼻叫喚とはこのことだろうか、とデュマは身震いした。こんな戦はクルアン王国にいる間は無かった。自分は生きている。間違いなく戦をしているのだ。
しばらくすると、オルバス騎士団がまた崩れ去った。どうやらレジストが力で勝ったようである。自分はまだ生きるみたいである。デュマは、ほっとした。
オルバス騎士団の指揮を執っている男は、再び態勢を立て直そうと必死であったが無理だった。あそこまで崩れてしまったものはもはや、修復することはできない。
「退け!」
指揮官の声が戦場に、こだました。
「合図だ」
ジュナイドだった。今回の奇襲の立案者である。
「旗を掲げろ。敵にこの旗を見せつけろ」
ジュナイドの一声で、一気に飛翔する獅子の旗が掲げられると、兵士達が歓喜の声を上げた。