新団長ライナ=ハルバートン④
ブルーメは前団長のユースチスが死んだ後に別の地方から引き抜かれてきた男だった。
「わしも守りがよいと思われます。情報によると反乱軍には最近、新たに幹部として加わった者がいると聞きました」
「わし」と言っているが決して歳をとっているわけではない。彼はまだ二十の後半である。ただ単に、昔からの口癖がとれないだけである。
「幹部として新たに加わったのは、クルアン王国にいた将軍のパリスと部下のジュナイドという者です」
フェルナンだった。パリスはクルアン王国の元帥ラスティの子飼いの騎士として仕えていたらしいが、反乱の嫌疑をかけられ部下と一緒に、このレストリウス王国まで逃げてきたようだ。
「分かりました。他に守り以外で策がある者はいますか?」
質疑に手を挙げる騎士は誰もいなかった。ライナはちらりと、幕舎の入口にも目を向けた。入口には護衛の兵卒が二人立っているだけだった。
「では、みなさん。今日はこれで解散してください」
ライナが言うと、軍議は終わった。
***
軍議が終わり幕舎からライナを除く騎士が出ると、残ったのは彼女だけになった。
オルバス騎士団の団長になってまだ日は浅いが、ここまで神経を使うとは夢にも思わなかった。ロウマは自分に酷なことを押し付けたものだった。幕舎に誰かが入って来た。ただの兵卒だった。
いや、その格好をしたロウマだった。
「どうして元帥がここに?そもそもいつから?」
「三日前からだよ。ここの兵士達は、私の顔を知らないが、フェルナンは私の顔を知っているから、身を隠していた。さっきの軍議は聞かせてもらった。見張りの兵卒としてね」
さっきの兵卒がそうだったようだ。ということは、もう一人の兵卒も顔見知りの人物の可能性が高い。ライナが尋ねようとした時、もう一人の兵卒が顔を出した。
「やっほー、ライナ姉さん。元気にしていた?」
「やっぱり、あなただったのね、シャリー。また元帥に迷惑を言って付いて来たのね?」
「迷惑じゃないですよ。師匠の護衛として付いて来たのです。ねえ、師匠」
猫なで声でシャリーが言った。
「さあ。付いて来るなと言った記憶があるのだが」
「師匠、そこは『そうだな。おまえに守ってもらわなければな』って言うのが原則でしょう!」
「知らん。しかもそれは、私の書庫から取って来た小説のセリフだろう」
「うっ……」
痛いところを突かれてしまい、シャリーは言葉に詰まった。